自己修復するバイオミメティックなポリマーを開発――イカを模倣しイカを超える

photo credit:Demirel Lab/Penn State

イカの環歯を模倣した生合成ポリマーが開発された。約1秒で自己修復し、自己修復後も元のポリマーと同等の強度を持つ。また、生きた動物を基礎としているため、生分解性があり、100%リサイクルが可能だ。この研究は、ペンシルベニア州立大学とマックス・プランク・インテリジェント・システム研究所によるもので、2020年7月27日、『Nature Materials』に掲載された。

アクチュエータに使用されるソフトポリマーは、繰り返す反復運動によって摩耗するが、このような可動部分は、信頼性が高く、かつ簡単に修理できる必要がある。自己修復材料を用いることで、壊滅的な故障が起こる前に初期の微小欠陥を修復できるが、自己修復材料には、修復強度が低いことや、修復に何時間もかかるなど、実用的な利用を制限する欠点がある。

研究チームは、自然界に存在するタンパク質であるイカの環歯を模倣して、機械的損傷を1秒以内に自己修復する高強度の合成タンパク質を作り出した。遺伝子複製によって生成されたアミノ酸から成る一連のDNAタンデムリピートを用いて作製したもので、標準的な細菌バイオリアクターでこの自己修復ポリマーを作ることができる。

このポリマーは、水と熱を加えることで修復するが、光を用いても修復できるという。また、半分に切断したとしても、修復後は強度が100%回復する。

研究チームはこのポリマーを使用して、ほぼリアルタイム(約1秒)で修復するソフトアクチュエータを作製した。自然界ではこの自己修復には24時間を要するため、この意味では自然界に勝っているとしている。

さらに、タンデムリピートの数を調整することで、迅速に修復して元の強度を保つソフトポリマーだけでなく、100%生分解性で、同じ元のポリマーに100%リサイクル可能なポリマーも作製した。ポリマーが模倣するイカが海で生物分解するように、バイオミメティックなポリマーもまた生物分解する。また、ある種の酸を加えることで、このポリマーは、同じ自己回復するソフトポリマーに再び加工できる粉末にリサイクルできる。

今回開発されたポリマーは、安価なプラスチックとの価格競合はできないが、石油ベースのポリマーにはない自己回復機能を備えている。これはアクチュエータだけでなく、小さな穴が危険を引き起こしうる化学防護服などの用途にも適していると考えらえる。

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