北海道大学は2020年10月1日、同大学電子科学研究所の小野円佳准教授らの研究グループが、ペンシルベニア州立大学やAGCの研究員と共同で、理想的な究極透明ガラスの構造を解明したと発表した。このガラス構造を光ファイバーに応用できれば、光伝送距離が飛躍的に伸び、量子通信の実用化の加速に期待が持てるという。
本研究では、計算機を用いて、実際の試験が難しい高い圧力領域でシリカガラスを合成した。その結果、高温高圧下ではガラスの構造がより理想的になって、透明度が極めて高くなり、光損失が常圧ガラスの50%以下になることが分かった。
研究には、ガラス中の空隙が散乱体となりレイリー散乱を起こすというモデルと、ガラスのネットワーク構造の密度ゆらぎを考慮した2種類の物理モデルを使用。圧力急冷プロセスで合成したシリカガラスのレイリー散乱定数を算出したところ、圧力4GPa(4万気圧)で急冷したガラスは散乱体としての空隙がほとんど消滅し、シリカガラスのネットワーク構造が理想的な構造に近づくことが分かったという。この圧力値は実験的にも、大きいサイズのガラスを合成できる現実的な圧力範囲だった。
これまで、0.2GPa以下の圧力急冷ガラスにおいてレイリー散乱を抑制できることは実験により示されてきたが、それ以上の圧力をかけた場合の挙動は分かっていなかった。今回の研究で理想的な圧力値を予測できたことは、高圧装置などの開発に拍車をかけ、超透明なシリカガラスの実現につながることが期待できる。
シリカガラスは、光ファイバーの母材として広く利用されているガラスで、今回明らかにした構造を持つシリカガラスを光ファイバーに応用できれば、光信号増幅器による増幅なしにデータを伝送できる距離を飛躍的に伸ばせる。また、究極的な安全性を備えた量子通信の実用化にも貢献できるという。