【連載】エンジニア専門の転職支援会社のキャリアアドバイザーが、注目業界の転職市場動向を解説__エネルギー、化学・素材業界編

少子高齢化による労働人口の減少などによって、日本国内で「人手不足」が深刻化しています。厚生労働省が発表している「労働経済動向調査(令和5年2月)」の「労働者の過不足状況」を見ると、製造業においては労働者過不足判断D.I.(不足と回答した事業所の割合から過剰と回答した事業所の割合を差し引いた値)が43ポイントになるなど、人手不足の傾向が顕著です。

こうした人手不足を背景として、製造業各社も人材獲得に力を入れています。今回は、エンジニア専門の転職支援会社メイテックネクストのキャリアアドバイザー3名に、それぞれが注目している業界の転職市場動向や、求められる人材像、技術ニーズなどを取材しました。第3回は、「エネルギー」と「化学・素材」です。(執筆・撮影:編集部)

第1回「半導体、医療業界編」の記事はこちら
第2回「モビリティ、ロボット業界編」の記事はこちら

<プロフィール>
メイテックネクスト コンサルタント 甲斐 由美(かい ゆみ)さん
前職はIT企業での人事を中心に、マーケティングや営業管理、新会社の立ち上げ等、さまざまな仕事を経験し、2007年にメイテックネクストに入社。以来、一貫して化学・素材系領域を担当し、延べ3,500名を超える技術者・研究者を中心にキャリアカウンセリングを行う。強みは、同業界×同職種への転職だけでなく、素材メーカーからデバイス・完成品メーカーへ、あるいは、アカデミアから事業会社への転職など、異業界×異職種への転職支援実績を数多く持つこと。

昨今は、大量のデータを扱う化学系技術者のIT(データサイエンティスト等)業界への転職や、実験のPDCAサイクルをコンサルティング業界で生かす等の新たなキャリアのバリエーションも増えました。面談時にご経験から強みやご志向を把握し、実現したいことが叶う業界や職種を提案することを得意としております。転職活動をスタートしたいけれど職務経歴書でどうアピールすればよいかわからない、どのような方針で活動を進めて良いか迷っている方へのアドバイスはお任せください。「現時点では転職しない」というご提案も好評いただいております。

エネルギー分野のキーワードは、「カーボンニュートラル」と「最適化」

自動車業界では蓄電、発電、電池で人材需要が増加

エネルギー分野では、「カーボンニュートラル」関連の採用ニーズが増加していて、Co2排出削減に寄与する蓄電や発電、電池といった領域の開発需要が旺盛です。特に電池関連は自動車向けのサプライヤーだけでなく、完成車メーカーも技術開発を内製化していますので、次世代電池の要素開発から量産技術検討まで、様々なフェーズで人材需要が増加しています。

材料調達から廃棄まで、資源・エネルギーの「最適化」が求められる

もう一つ注目すべきポイントとして、「エネルギーと資源のロス削減・最適化」が挙げられます。自動車業界を例にすると、欧州が主導する地球温暖化への対応として、材料の調達から生産、出荷、廃棄までのエネルギーと資源を削減する、という取り組みが進んでいます。しかし、完成車メーカーの多くは、この課題を解決できる技術を持っていなかったのです。そこで、ここ2~3年程は、金属・鉄鋼系のエンジニアを採用する動きがみられました。これは、単に金属材料を扱えるというだけでなく、コスト面に加え、エネルギー効率を高めて、最小限の環境負荷で、ものづくりを最適化できる人材を求めている、ということを意味しています。こうした最適化を実現していくために、シミュレーションの技術を活用するケースも増えてきたので、CAE解析や量子計算といったスキルが有効になるでしょう。

最適化という点では、鉄鋼・非鉄業界も同様の採用ニーズがあります。これらの業界は、生産工程で膨大な熱エネルギーとコストがかかるため、それを最適化するための新しい生産プロセスを考えており、化学工学の観点から生産プロセスを確立できる人材ニーズが堅調です。

このようにエネルギーの分野では、エネルギー効率を高める、資源ロスを減らす、環境負荷を最小限にする、という環境型ニーズに対応できる人材が求められるようになっていて、今後もニーズは増加していくことが想定されます。

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化学・素材分野のエンジニアは、専門性+業界を横断できるスキルの習得を

材料開発では、データサイエンスとシミュレーション技術が重要なスキルに

化学素材の分野における企業の開発ニーズは大きく2つあります。一つは、バイオマス素材など、生産工程で環境に負荷をかけない新素材の開発。もう一つはエネルギー分野とも連動するのですが、省電力化で重要となる半導体の性能向上を実現するための材料開発のニーズです。こうしたニーズに対応するために重要なスキルが、データサイエンスやシミュレーションです。化学素材系メーカーのエンジニアも、従来は多段的に実験を行い、検証していましたが、近年はシミュレーションの技術を駆使して、データサイエンス的なアプローチから材料開発に取り組むようになってきました。実際に、大手化学メーカーの中には、データサイエンスの専門部隊を持つ企業も増えてきているため、注目度の高いスキルと言えるでしょう。

デジタル化技術を習得して活用できれば、業界を横断した活躍もできる

化学・素材の分野は「プロセス産業」と言われ、開発や生産の最適化が難しい領域だったのですが、マテリアルズ・インフォマティクスの活用や、ビッグデータ、AI、機械学習といったデジタル技術を駆使して開発・生産工程を最適化していく流れが出てきました。例えば、ある素材メーカーは、素材をいかに均一な品質でコストを極限まで下げるかということと、膨大な熱の使用に伴う歩留まりを最適化して出荷できるかで粗利率が決まってくるため、シミュレーションを活用してどのように効率化・最適化していくかが重要なテーマでした。そこで生産現場のエンジニアに、データサイエンスの専門部隊が画像データの情報処理だけでなく、現場でのシミュレーションができるレベルまで教育する取り組みを行っています。

このように、化学・素材の領域でもデータサイエンスやデジタル技術の重要度が高まっています。実際に、デジタル技術を習得した化学メーカーの生産技術エンジニアが、自動車メーカーの生産部門のデータサイエンス部隊に転身する事例もありました。化学・素材の領域に携わるエンジニアでも、データサイエンスやデジタル技術を習得して活用できれば、化学メーカーだけでなく、電子部品や自動車・産業機器メーカーなどの他業界や、DX推進を支援するIT領域のデータサイエンティストなど、業界を横断した活躍が期待できるようになります。

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