- 2021-2-16
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- TADF, 九州大学, 励起一重項, 励起三重項, 有機EL, 有機ELデバイス, 有機発光材料, 熱力学, 熱平衡, 熱活性化遅延蛍光, 研究, 項間交差
九州大学は2021年2月15日、同大学が開発した有機発光材料において、スピン反転を伴う励起一重項状態と励起三重項状態間の可逆的かつ高速な項間交差によって、両励起状態間の熱平衡が近似的に成立することを見出したと発表した。
熱力学の基本概念である熱平衡によって、複雑な分子系であってもその振る舞いを熱力学の法則から予測できる。例えば、次世代の有機EL材料として期待されている熱活性化遅延蛍光(TADF)材料において、励起一重項状態と励起三重項状態間の熱平衡を仮定することで、その発光寿命を単純な数理モデルで表すことが可能になる。しかし従来、励起一重項状態から基底への放射失活によって比較的短時間でしか存在しない有機発光材料の励起状態において、上記のようなスピン多重度間での理想的な熱平衡状態を実現するのは困難だった。
今回の研究では、108s-1(1秒間に1億回)以上の可逆的な項間交差が可能なTADF材料を開発。同材料が励起一重項状態と励起三重項励起状態間の熱平衡モデルに従って発光することを明らかにした。
同材料の常温での発光寿命は750nsとTADF材料としては極めて短く、熱平衡モデルでの予測値と良好な一致を示した。同材料を用いた有機ELデバイスは、10000cd m-2以上の高輝度においても20%以上の高い外部EL量子効率を達成。TADF材料の課題であった高輝度時の効率低下を抑制することに成功した。