- 2021-5-26
- 技術ニュース, 海外ニュース, 電気・電子系
- EV, MIT, Nature Energy, スルホンアミド, ニッケル酸リチウムLiNi0.8Mn0.1Co0.1O2正極, リチウム金属電池, 学術, 樹枝状(デンドライト), 正極, 遷移金属酸化物系電極
MITを中心とする研究チームが、負極にリチウム金属を用いるリチウム金属電池において、正極の遷移金属酸化物系電極の安定性を確保し、充放電サイクル寿命を長くできる電解質を開発した。スルホンアミドをベースとした電解質であり、正極を構成する遷移金属の陽イオンの溶出に対して高い抵抗力を有している。充放電サイクルに伴う正極の膨張収縮とそれに伴って生じる割れを抑制することができ、EVの長距離走行や、携帯型デバイスの長時間使用を可能にする次世代リチウム金属電池開発に貢献すると期待される。研究成果が、2021年3月25日の『Nature Energy』誌に論文公開されている。
リチウムイオン電池の中で負極活物質として、通常の黒鉛電極の代わりにリチウム金属やその合金を使うものがリチウム金属電池だ。リチウム金属電極の理論容量は黒鉛電極の約10倍と極めて大きく、大容量電池の有力候補として研究開発が進められてきた。しかしながら、充放電サイクルを繰り返すと負極にリチウム金属が樹枝状(デンドライト)に析出成長、セパレータを貫通してショートを生じるという安全性の問題が実用化の課題となっていた。負極についてはデンドライトを抑制できるセパレータ技術が開発されるなど、改善が進んでいるが、正極側においても遷移金属の陽イオンが液体電解質内に溶出するため、充放電サイクルに伴って正極の膨張収縮が生じ、それに伴って割れが発生する現象が指摘されている。その結果、充分に長い充放電サイクル寿命を確保できない状況にある。
研究チームは、様々な電池に対応する電解質の研究を進める過程で、遷移金属酸化物系正極との化学反応を抑制するスルホンアミド基の電解質を見出した。コバルトとマンガンを含むニッケル酸リチウムLiNi0.8Mn0.1Co0.1O2正極を用いた研究を実施したところ、充放電を担うリチウムイオンは通過させる一方で、ニッケルなど遷移金属の陽イオンの溶出を抑制することを確認した。その結果、従来の液体炭酸塩系電解質を用いた場合には、正極に多くの割れが発生したが、新しいスルホンアミド基の電解質では割れの発生は見られなかった。また、多数回の充放電サイクル後に電極表面に生じる、望ましくない化合物の蓄積も10倍以下に減少した。リチウム金属電池としての実証実験では、230mAh/gの比容量、420Wh/kgのエネルギー密度を達成し、最先端のリチウムイオン電池の約2倍の大容量を実現できることを確認した。更に、充放電100サイクル後でも、99.65%のクーロン効率を達成している。
「開発した電解質は、商業的に入手可能な出発原料を用いて、非常に簡易な反応で製造できる。一部の中間前駆体化合物は高価であるが、量産効果で低価格化が充分可能だ。EVの長距離走行や、携帯型デバイスの長時間使用を可能にする、高電圧大容量の次世代リチウム金属電池の開発に貢献できる」と、研究チームは期待している。
関連リンク
Design could enable longer lasting, more powerful lithium batteries