- 2021-6-25
- 化学・素材系, 技術ニュース
- キリンホールディングス, ギネスビール, 大阪大学, 大阪大学大学院基礎工学研究科, 数理モデル, 泡の模様, 研究, 転波
大阪大学とキリンホールディングスらの研究グループは2021年6月22日、コップに注いだギネスビールの泡が作り出す模様の発生条件を、世界で初めて数式で表現したと発表した。泡や粒子が関連する流れの理解促進や、流れの制御につながると期待されている。
ギネスビールには窒素ガスが加圧封入されており、コップに注ぐとコーラや炭酸水に含まれる炭酸ガスの泡の10分の1程度の微細な泡が発生する。飲料中に無数の泡が長くとどまり、クリーミーな味わいを楽しめると同時に、泡がコップの上から下へと移動する美しい模様が現れる。
大阪大学大学院基礎工学研究科の渡村友昭助教、杉山和靖教授らがつくる研究グループはこれまでに、ギネスビールの泡が作り出す模様は雨水が傾斜面を下降する際に現れる模様「転波(てんぱ)」と同様であることを明らかにしていた。しかし、泡の模様は窒素封入飲料でしか見られず、炭酸水やコーラでは見られない。同じ泡でも模様の発生を決める要因は解明されていなかった。
今回の研究では、2次元で比較的難易度が高くないコンピューターシミュレーションと数理モデルを併用し、気泡が模様を作る条件の一般性を調べた。まず2次元のコンピューターシミュレーションを用いてギネスビールに現れる泡の模様の再現を試みたところ、再現に成功。泡の量や大きさ、容器の大きさや壁面の角度を自由に設定したシミュレーションを約400条件実施した。
また、泡と液体の運動方程式を用いて数理モデルを作り、流れのスケーリング則を見出した。模様の出現は「安定か不安定を表す指標(フルード数)」と「泡が密か疎かを表す指標(濃度界面の解像度)」という2つの要因によって決定することを示し、コップの形に応じた模様の有無をこの数理モデルで説明できるようになった。
その結果、気泡の模様は、泡が「密」に存在して集団的に振る舞う条件下で発生し得ることを解明。コーラや炭酸水が一般的なコップで模様を形成しない理由は、隣接する泡同士の距離が離れており、「密」状態が回避されているためだと分かった。ただし、コーラや炭酸水でもドラム缶のように非常に大きなコップに注げば、相対的に密な状況を作り出せ、模様が現れる可能性があると示唆している。
今後、この模様の発生条件を理解することで、食品、飲料の醸造や排水処理に用いる発酵槽の内部流動を予測できるため、発酵食品の品質管理や水処理の高効率化につながるのではないかと期待されている。