東北大学は2021年7月26日、東京大学、岩手大学と共同で、原子核の自転運動「核スピン」による熱発電を実証したと発表した。
環境の温度差から電気を作る熱電変換現象を活用した発電は、次世代のクリーンエネルギー技術の基盤要素として注目されている。熱電変換では、電子スピンの性質を利用したスピンゼーベック効果の発見により、大面積化や薄膜化の容易さなどの観点から、新しいタイプの熱電変換素子として期待されている。
これまでの熱電変換現象の研究や応用は、すべて物質中の電子を利用したもののみだったが、電子や電子スピンによる熱電変換は、絶対零度(-273.15 ℃)に向かって温度を下げていくと効果が激減し、最後には効果がなくなってしまうという課題があった。
今回の研究では、超低温域まで高いエントロピーを保持する核スピンに着目した。核スピンは電子スピンと比較してかなり低いエネルギーを持っており、絶対零度近辺の低温域でも揺らぎを続けることで、熱電変換を引き起こすことが可能だ。その核スピンの熱揺らぎをスピントロニクス技術によって電力に変換することに成功した。
炭酸マンガン(MnCO3)に白金(Pt)を成膜した試料を用いて実験を行ったところ、電圧信号の強度が絶対零度に迫る0.1K(-273.05℃)まで増大。さらに信号が強磁場域(14T)でも抑制されないことを見出した。
今回の研究により、これまで磁気共鳴イメージング(MRI)の根幹要素として利用されてきた核スピンが、それ以外の発電という新たな領域に応用できることが示された。また、これまでの電子スピンに核スピンの概念を加えることで、超低温までの適用可能な熱電変換の可能性が開かれた。