AGCは2021年8月4日、海洋研究開発機構(JAMSTEC)と共同で、数値解析手法を用いて、化学強化ガラスが破損する際の破壊パターンを詳細に再現することに世界で初めて成功したと発表した。化学強化ガラス中を伝搬する亀裂進展の過程をほぼ完全再現したという。
スマートフォンのカバーガラスなどに用いられる化学強化ガラスは、表面に大きな圧縮応力を与えるほど強度が上がる反面、内部に引っ張り応力が形成されるため、傷が深く入ると多数の亀裂が生じて破損する。こうしたことから、強度が高く、割れにくい化学強化ガラスの製造には、強化応力の大きさを適正にデザインすることが重要となる。
しかし、ガラスの破壊パターンは、亀裂が複雑に分岐する非常に複雑な現象で、これまでのシミュレーション技術では再現が難しかったという。そのため、強化応力の最適化には、落下試験や割れの解析、破壊起点観察など実験による試行錯誤が必要不可欠だった。
そこで、化学強化ガラスの破壊パターンを予測する高精度な数値解析手法「残留応力場の中での動的破壊進展解析手法」を開発。AGCの破壊観察技術と、JAMSTECの土壌や地盤の破壊解析に応用されてきた数値解析技術を組み合わせ、強化応力の影響を考慮する新たな理論を組み込んでいる。
化学強化ガラス中を伝搬する亀裂進展の過程をほぼ完全再現することに成功した世界で初めての事例で、強化ガラス内部に蓄えられた応力の大きさに応じて変化する亀裂進展パターンをよく再現している。また、ナノ秒スケールの時間分解能で、亀裂伝搬中の応力波の様子を詳細に描き出しているという。
AGCグループは今後、ガラスをはじめとする脆性材料や複合材料の強度解析に今回開発した手法を活用し、新たな価値をプラスした製品やソリューションを提供できるよう技術革新を進めていく。