- 2021-8-27
- 化学・素材系, 技術ニュース
- ARPChem, NEDO, TOTO, ソーラー水素, 三菱ケミカル, 人工光合成化学プロセス技術研究組合, 信州大学, 光触媒パネル反応システム, 太陽光受光型光触媒水分解パネル反応器, 富士フイルム, 新エネルギー・産業技術総合開発機構, 明治大学, 東京大学, 研究
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と人工光合成化学プロセス技術研究組合(ARPChem)は2021年8月26日、人工光合成システムの社会実装に向け、東京大学、富士フイルム、TOTO、三菱ケミカル、信州大学、明治大学とともに、100m2規模の太陽光受光型光触媒水分解パネル反応器(以下、光触媒パネル反応器)と水素・酸素ガス分離モジュール(以下、ガス分離モジュール)を連結した光触媒パネル反応システムを開発し、世界で初めて実証試験に成功したと発表した。
屋外の自然太陽光下での実証試験には、2019年8月から着手した。開発したシステムは100m2の受光面積を持つように連結された光触媒パネル反応器と、分離膜を内蔵したガス分離モジュールで構成されている。水分解反応により生じた水素と酸素の混合気体から高純度のソーラー水素を安全かつ安定的に分離/回収することに成功した。
新たに設計/開発した光触媒パネル反応器は、大量生産に対応し、相互に連結できて長期間使用できる。反応器の上面は透明なガラス製で、25cm角のチタン酸ストロンチウム光触媒シートを中に格納。光触媒シートとガラス窓の間には0.1mmの隙間があり、水を供給して反応させる。
紫外光を光触媒パネル反応器に照射すると、反応器上方に生成する水素と酸素の気泡がスムーズに移動し続ける。光触媒シート表面は濡れた状態を維持するため、高い水分解効率を保てる。また、気泡が速やかに移動し、合一していくため、気泡による光散乱の影響もほとんど生じないと説明している。
実験室環境下で、この光触媒シートに疑似太陽光を連続的に照射し続けて水分解活性の長期耐久性を測定した結果では、初期活性の8割以上の活性を2カ月以上維持。これは日本の屋外試験の条件下に置き換えると、約1年の耐久性に相当する。
新たに開発した光触媒パネル反応器は、連結して3m2のモジュールを組み立て、それらをプラスチックチューブで連結。それぞれのモジュールに自動的に水の供給量を制御する機構が組み込まれ、100m2規模の世界最大となる光触媒パネル反応器に組み立てた。
光触媒パネル反応器は、屋外環境で継続して1年程度水素と酸素の混合気体が発生することを確認。光触媒パネル反応器から生成した混合気体が勢い良く吹き出る様子を観察できたという。夏の日照条件が良好な時期には、最大0.76%の太陽光エネルギー変換効率を達成した。
今回、紫外光しか吸収しない光触媒を用いたため、太陽光エネルギー変換効率は1%未満と低い値にとどまっているが、今後数年以内に可視光と紫外光の両方を吸収できる光触媒を開発し、5~10%の達成を目指す。
光触媒パネル反応システムのガス分離モジュールに関しては、水分解反応で生成した水素と酸素の混合気体を導入し、水素だけを分離/回収する実証試験も実施した。
光触媒パネル反応器からガス分離モジュールに供給されるガスの成分は、水素と酸素が2:1。これを1日分離すると平均で水素濃度が約94%の透過ガスと、酸素濃度が60%以上の残留ガスに分離される。複数回の類似実験により、天候と季節によらず約73%の回収率で水素を分離できることを確認したという。
実証試験では、プロジェクトのテーマで開発中の分離膜ではなく、市販のポリイミド中空糸分離膜を使用しており、水素が透過ガス、酸素が残留ガスにそれぞれ濃縮される。NEDOとARPChemは、低コストの水素製造を実現するため、今後さらに水素分離性能の高い膜を開発していく予定だ。
また、1年以上にわたる屋外試験の間、1度も自然着火や爆発が発生しなかったという。今後の実用化に向けて爆発リスク確認のため、光触媒パネル反応システムの各構成部に意図的に着火したが、光触媒パネル反応器、ガス捕集用配管、中空糸分離膜を含むガス分離モジュールのいずれも、破損や性能劣化は確認されなかった。
混合気体を貯留するタンク(容積3L)も、タンク内を適切に仕切ることで着火による破壊が起こらなくなることも確認。一連の結果は、爆発性の高い混合気体であっても、適切に設計することで安全に取り扱えることを示しているが、今後より厳密な安全性試験を実施していく予定だ。
今後、可視光応答型光触媒による太陽光エネルギー変換効率(5~10%)を持つ高効率な光触媒開発で実用化を目指すとともに、光触媒パネルの低コスト化と一層の大規模化、ガス分離プロセスの分離性能とエネルギー効率の向上のための技術開発を進めていく。