電力不要の冷蔵ケースに­――MIT、3層構造の冷却システムを開発

Credits:Photo: Courtesy of Zhengmao Lu

米マサチューセッツ工科大学(MIT)は、電力を使わず、少量の水のみを利用した冷却システムを発表した。放射冷却、気化冷却、断熱効果を組み合わせたスリムなデザインで、効果的かつ効率的な空調や食品保存に活用できる。研究結果は、2022年9月20日付けで『Cell Reports Physical Science』に掲載されている。

Evely Wang教授率いる研究チームは、以前から電力不要の冷却システムを研究している。「従来の材料は通常、太陽光に当たると熱くなるため、周囲温度で高い冷却性能を得られない」と、論文の筆頭著者であるZhengmao Lu博士研究員は語る。

研究チームは、エアロゲル、ハイドロゲル、反射材料でできた3層構造の冷却システムを考案した。最上層のエアロゲルは、ポリエチレン製のスポンジ構造で、空気を多く含み、断熱性に優れるだけでなく、水蒸気や赤外線を自由に通すため、気化冷却および放射冷却効果を発揮する。その下のハイドロゲル層もスポンジ状で水分を多く含み、蒸発器およびエミッターとして機能する。一番下の反射層は、入射した太陽光を反射するため、デバイスにかかる熱負荷を軽減する。エアロゲルの空孔も太陽光の反射に貢献している。

実験では、直径4インチ(約10cm)の小型デバイスをMITキャンパスの屋上に設置し、直射日光の下で、周囲より9.3℃下げられることを確認した。また、不利な気候条件でも、先進の放射冷却システムよりも300%高い性能を示すという。

既存の空調システムと組み合わせて、稼働時に高温になるコンデンサー部に冷水を送ってシステムの負荷を下げれば、空調の効率が高まり、エネルギーを節約できる可能性がある。さらに、食品保存用途では、夏季に電力がなくても、湿度の高い地域では40%、乾燥した地域では200%、保存期間を延ばせるとしている。蒸発した水分を補充する必要があるが、高温乾燥地域では4日に1度、湿潤地域では1カ月に1度の頻度で良いと見積もっている。

最上層に使用したエアロゲルの製造コストが高いため、大量生産するにはさらなる開発が必要だ。ほかの材料は手に入りやすく、比較的安価だという。研究チームは、より低コストのエアロゲルの製造法や代替材料を探している。

放射冷却、気化冷却、断熱効果は既知の技術だが、個々の冷却能力には限りがある。今回、これらを巧みに統合することで、全体として高い冷却能力を持たせることができた。温暖化による空調システムの電力依存の増加に対応し、食料や電力、水資源に限りがある地域においても、腐敗によるフードロスを削減できると期待される。

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