筋肉を鍛える最適手段を予測する数学モデルを開発

ケンブリッジ大学の研究チームは、理論生物物理学の手法を用いて、筋肉を付けるための最適な運動方法を予測できる数学モデルを構築した。このモデルにより、特定の運動量による個人の筋肉の成長度合いや、成長にかかる時間が分かるようになる。研究成果は、『Biophysical Journal』誌に2021年8月10日付で公開されている。

運動をすると筋肉が付くことは知られているが、意外なことに筋肉が付く理由やメカニズムはよく分かっていない。

今回構築した数学モデルは、筋肉の成長に影響を与える化学信号の生成に筋タンパク質のタイチンが関与しているという、研究チームの以前の研究に基づいている。研究チームは2018年に、筋フィラメントのタンパク質は力を受けるとどのように変化するのかについて研究を開始した。その中で、加えられた力の変化にシグナルを送る役割を果たすのは、アクチン、ミオシンの次に多い筋肉の構成要素であるタイチンであることを明らかにした。

巨大分子のタイチンは、その大部分は筋肉が伸ばされたときに伸長するが、一部は筋肉が収縮したときに張力を受ける。この部分にタイチンキナーゼドメインが含まれており、張力を受けて分子が開くと、シグナル伝達物質と結合して、筋肉の成長に影響を与える化学シグナルを生成する。分子は、より大きな力を受けたとき、または長い時間力を受けたときに、シグナル伝達分子の結合部位が露出しやすくなる。その結果、活性化シグナル分子は増加し、mRNAの合成を誘導して、新たな筋タンパク質の生成につながる。

この知見に基づき、研究チームは筋肉の成長を定量的に予測できる数学のモデルを開発した。まず力を受けたタイチン分子が開き、シグナル伝達のカスケードが開始する様子を記録する単純なモデルを構築した。そして、顕微鏡データに基づき、力によってタイチンキナーゼユニットが開閉し、シグナル分子が活性化する力依存性の確率を求めた。次に、代謝エネルギー交換、反復の長さ、回復などの情報を加えて、モデルをより複雑にした。このモデルは、過去に行われた筋肥大に関する長期研究により検証した。

ケンブリッジ大学のEugene Terentjev教授は、「私たちのモデルは、最大負荷の70%程度の負荷がより効率的に筋肥大を促進できることを示唆しています。それ以下の負荷では、タイチンキナーゼの開口率が急激に低下し、機械的感受性の高いシグナル伝達が行われなくなりますし、それ以上になると急激な疲労で良い結果が得られなくなります」と述べている。

このモデルは、長期間の臥床や微小重力空間における宇宙飛行士の筋力低下の問題にも対応しており、どれくらい活動しないと筋肉が衰え始めるのか、最適な回復方法は何なのかについても示している。研究チームは、将来的にこのモデルを用いたアプリケーションを作成し、特定の目標に対する個人の最適な運動療法を提供したいと考えている。

関連リンク

Mathematical model predicts best way to build muscle
Why exercise builds muscles: titin mechanosensing controls skeletal muscle growth under load

関連記事

アーカイブ

fabcross
meitec
next
メルマガ登録
ページ上部へ戻る