水の波を使って未来を予測するアナログコンピューター――リザバー・コンピューティングにより高性能デジタルコンピューターを上回る性能

Yaroslav Maksymov, Author provided

「リザバー・コンピューティング」と呼ばれるアプローチから、流水を使用して未来の出来事を予測する小型の概念実証用コンピューターが作製された。この研究は豪チャールズスタート大学と豪スウィンバーン工科大学によるもので、その詳細は2023年5月30日付で『Europhysics Letters』に掲載された。

リザバー・コンピューターの「リザバー」とは「ため池」を意味する。リザバー・コンピューターは人間の脳の中で起こる推論プロセスを模倣し、過去の入力データから学習して未来の出来事を予測できるというものだ。

例えば、まず過去1年間の降雨量の記録と、水がいっぱいに入ったバケツがあるとする。このバケツがいわば計算用のリザバー、すなわち入力データをためておく「ため池」になる。そして、毎日の降雨量を、石を使ってバケツに「入力」する。小雨の日は小さな石を、大雨の日は大きな石をバケツの中に投げ入れる。雨が降らない日は石を投げ入れない。そうすると、それぞれの石はバケツの中の水を波立たせ、その波は他の石が作った波と相互作用する。

バケツの中の波と降雨パターンは同じ物理法則に従って時間とともに発展するため、最終段階では、バケツの水面の状態から雨天についての予測ができる。波の相互作用で新しい大きな波ができたら、このリザバー・コンピューターは大雨を予測すると言える。そして、波が小さければ小雨が降ると予測し、波が互いに打ち消し合って水面が静止したら雨は降らないと予測するはずだ。

これは、他の自然現象や社会経済的変化の多くでも同様であり、リザバー・コンピューターは金融市場やある種の人間の活動すら予測できると、研究チームの1人であるIvan Maksymov博士は説明している。

当初、リザバー・コンピューターは、脳のニューロン構造に基づいたニューラルネットワークを使って提案されたが、水面の波のような単純な物理システムで構築することも可能だ。しかし、バケツの水では波がすぐに消えてしまうという限界がある。気候変動や人口増加のような複雑な過程を予測するには、より長持ちする波を使ったリザバーが必要だ。

そこで、研究者らは、波形を保って長い距離を移動する孤立波である「ソリトン」を活用することを考えた。今回作られたリザバー・コンピューターでは、少し傾斜した金属板の上を薄い水の層が流れており、小さな電動ポンプで流速を変化させて波を発生させる。紫外線下で水が光るように蛍光材を加えて、研究者らは発生する波の大きさを正確に測った。このコンピューターで発生する孤立波は、バケツの水面の波よりもずっと速く動き、より長く存在するため、バケツの水を使う場合より高速にデータを処理できる。

また、研究者らは、カオスでランダムなデータのベンチマークセットに対し、今回作成されたコンピューターで過去の入力を記憶する能力と予測能力をテストした。その結果、すべてのタスクを非常にうまく処理しただけでなく、同じタスクを課された高性能デジタルコンピューターを上回る性能を示した。

このリザバー・コンピューターは、現在のスーパーコンピューターよりもはるかに低価格で入手できるので、将来さまざまな分野で信頼性の高い予報を出すことができるようになる可能性がある。デジタルデータを使用しないためサイバー攻撃に強いという利点もある。今後、研究者らは、このコンピューターをマイクロ流体プロセッサーとして小型化する予定だという。

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