LiDAR(ライダー)とは?自動運転で注目の光センサーの原理や用途について解説

離れた対象物との距離、対象物の形状などを計測する「LiDAR(ライダー)」という技術に注目が集まっています。これまで距離計測などに用いられてきた「レーダー」が不得意なことを、LiDARが補ってくれるのではないかと期待されているのです。

LiDARは目新しい技術ではありませんが、人や障害物などの対象を高精度に検知できます。近年では、特に自動運転技術を発展させていくため、車載向けセンサーとしてLiDARが有望視されるようになってきました。さらに、深度計測にも優れていることから、Appleが2020年モデルのiPad ProやiPhone 12 Pro/Pro MaxからLiDARを採用。カメラのオートフォーカスやナイトポートレートなどの機能で活用されるようになり、LiDARを使って部屋の模様替えをするARアプリなども登場しています。エンジニアでなくてもLiDARという名前を耳にする機会が増えてきたのではないでしょうか。

この記事では、LiDARの仕組みから、一般車に安全機能として実用化されているカメラやセンサーとの違い、普及を図るための課題などを分かりやすく解説していきます。

LiDAR(ライダー)の原理とは

LiDARは“Light Detection And Ranging”、もしくは“Laser Imaging Detection and Ranging”の頭文字をとった用語です。日本語では「光検出と測距」、「レーザー画像検出と測距」と訳されます。

レーザー光を使ったリモートセンシング技術の一つで、対象物にレーザー光を照射し、物体に当たって跳ね返ってくるまでの時間を計測することで、物体までの距離や方向、位置、形状などを測定します。

広範囲に照射されたレーザー光のスキャン結果は、ビューア上では点で表されることが多いです。無数の点が集まることで点描によって画像イメージを生成し、リアルタイムに周囲の状況を3次元で把握できるようになります。

技術としてはレーダー、“Radio Detecting and Ranging(電波探知測距)”と似ていますが、レーダーでは波長の長い電波を使うのに対し、LiDARは波長の短い光を使います。近赤外光や可視光、紫外線など、光束密度が高く、波長の短いレーザー光を用いるため、高い精度で位置情報や物体の形状などを検出できるのが特徴です。レーダー波は効率よく反射される金属物の測定は得意な一方、反射しにくい物体や小さな物体の測定は苦手としています。

そんなレーダーのデメリットを補う技術として、注目されるようになってきたのがLiDARです。もともと1960年代から地質学や気象学の分野で用いられてきましたが、近年では計測精度が著しく向上し、自動運転の分野など、広範な用途での活用が期待されるようになってきました。

LiDAR(ライダー)が自動運転で注目される理由

自動運転には、人間の「目」の代わりになるセンサーが必要です。ドライバーは運転するときに、周囲の道路状況をまず目で察知します。安全運転のためには、自動車やバイク、自転車、歩行者、白線、横断歩道、ガードレール、縁石、信号、道路標識など、道路上の様々な対象を正確に認識しなければいけません。

これまでの自動運転では、それらの対象を認識するセンサーとして、主に「ミリ波レーダー」と「カメラ」が使用されてきました。これらのセンサーは、認識すべき対象や状況変化の少ない高速道路などでは有効なものの、一般道路のような複雑な交通環境では十分な安全性を担保できませんでした。

なぜなら、ミリ波レーダーは前述のように、樹木やダンボールなどの反射率の低い物体や、小さな物体を認識するのが苦手だからです。カメラは対象物との距離を測るのが難しく、雨や霧などの悪天候のほか、夜間や逆光にも弱いのです。

そこで注目されるようになったのがLiDARです。LiDARは、レーザーによって対象までの距離や位置、形状などを正確に3次元で認識できます。これによって、検知したものが歩行者なのか、それとも道路標識なのか、といった判別精度をより向上することが可能になります。

ミリ波レーダーとカメラ、そしてLiDARを組み合わせることで、より安全性の高い自動運転が実現できると期待されています。

LiDAR(ライダー)の用途例

LiDARは気象学や大気の研究、GPSと組み合わせて地殻の変位の測定や氷河の観測をするなど、地質学にも役立っています。

最近になってLiDARに注目が集まる理由の一つは、前項で触れたように自動運転において人間の目に代わる役割を担える可能性があるからです。自動車や無人搬送車(AGV)、ロボットなどに搭載し、人や物を高精度に検知する用途で研究開発が進んでおり、民生から産業分野まで、自動化を安全に推進するための重要な役割を任されようとしています。

ここからは、LiDARの活用例について、用途別に詳しく取り上げていきます。

気象学や大気の研究

LiDARのレーザーを大気中に向けて、エアロゾル(浮遊粒子状物質)や分子による後方散乱光を測定することにより、エアロゾルや大気成分のほか、雲のプロファイリングや風速、温度なども観測できます。

地質学や岩石力学

LiDARを航空機に搭載して地上にレーザーを向ければ、高精度な標高マップを作成できます。標高を樹木越しでも正確に測れるのがLiDARの利点です。

GPSと組み合わせることで、地殻の隆起や沈降、氷河の成長や減少、沿岸の変化なども観測できます。また、岩石質量分析や岩盤斜面の変化なども計測できるため、岩石力学でも活用されています。

無人搬送車(AGV)

LiDARは、工場や倉庫で使用される無人搬送車(AGV)にも活用されています。AGVは「Automatic Guided Vehicle」の略称です。通常は搬送車をガイドする磁気テープや2次元マーカーなどの設置が必要ですが、LiDARを搭載することで、搬送車はレーザーで周囲を把握しながら、ガイドなしで走行できるようになります。

ロボット

LiDARはAGVだけでなく、掃除ロボットや配膳ロボット、案内ロボット、警備ロボットなどの自律走行にも使われています。SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)と呼ばれる「自己位置推定」と「環境地図作成」を同時に処理する技術により、掃除ロボットであれば、一度掃除したところを重複せずに効率良く掃除できます。

スマートフォン

LiDARはスマートフォンに搭載することで、アプリの性能が向上したり、機能が増えたりします。

例えば、LiDARは暗いところでも有効なため、写真アプリでは夜間でも素早いオートフォーカスが可能になります。被写体の長さや、被写体との距離も測定可能です。また、部屋全体をスキャンして間取り図を作ったり、AR(拡張現実)でインテリアの配置を検討したりすることもできます。

従来のものとLiDAR(ライダー)の違い

自動ブレーキや車線維持支援システムなど、自動車メーカー各社はADAS(先進運転支援システム)の開発を競うようになり、特定の条件下で自動運転できる自動運転レベル3以上を実現するには、LiDARは不可欠だと言われています。すでにトヨタがLEXUS「LS」にLiDARを搭載した実績なども出てきており、今後、LiDARを搭載する市販車が続々と登場してくる見通しです。

これまで自動車業界では、自動車の周辺状況を識別・測定するための方式として、カメラとミリ波レーダーを組み合わせるのが主流でした。しかし、カメラは撮影した映像を画像処理することで対象物を識別できますが、正確な形状や位置の検知が困難です。悪天候や暗がり、逆光、レンズの汚れなどで精度が大きく左右される短所があります。ミリ波レーダーはLiDARと同じ原理で、照射した電波が対象物に当たって跳ね返ってくるまでの時間差を計測することで、距離や方向を測定します。明るさや天候に影響されない長所はありますが、反射しにくい物体や小さな物体の検知は苦手です。

LiDARは広い範囲にわたり、高精度に距離や位置、形状を検出し、3次元での把握が可能です。一方で、「色の識別が苦手」「検知能力が天候に影響される」「ミリ波レーダーより高価になる」といった短所もあります。

そこで3つの方式を組み合わせることで短所を補い、より正確に状況を把握できるシステムの開発が進められるようになったのです。

LiDAR(ライダー)の実用化が遅れた背景

自動運転車向けのLiDARは開発段階を抜けつつあり、徐々に実用化されてきていますが、越えるべきハードルがまだいくつかあります。

最大の課題は価格です。試験車両向けで数百万円だったとされる開発初期と比べれば、大幅な低価格化が進んでいますが、車載向けセンサーの中では高価な方式のため、市販車への搭載は一部の高級車に限られているのが現状です。

富士キメラ総研のレポートでは、2022年に129億円だったLiDARの市場規模は、2030年には9,548億円、2045年には3兆5,375億円に拡大すると予測されています。

“「2022年には市場は中国を中心に129億円が見込まれる。レベル3では、自動運転システム主体の制御を実現するためにLIDARとダイナミックマップを組み合わせて搭載する必要があり、特にレベル4/5では、自動運転システムを2重、3重にして、一つの系統に不具合があっても最低限の安全性が保てるようにすることが必須であることから、市場は大幅に拡大すると予想される。」”
(引用:株式会社富士キメラ総研 プレスリリース「第22085号 自動運転車の世界市場を調査」

市販車でLiDARの採用が増えるにつれて、LiDARの小型化、軽量化、高性能化とともに低コスト化が加速し、より大衆向けの車種でも採用が広がっていくと考えられます。

価格以外にも、ソフト面での課題もあります。自動運転の実現にはLiDARのほか、3次元情報を持つ、高精細な自動運転向け地図データ「ダイナミックマップ」が必要になります。ダイナミックマップとLiDARで取得した地図を比較することによって、自己位置を精密に推定できます。車線や地形、信号、規制など、常に最新の道路交通情報が反映されたダイナミックマップについても、共通データの作成が進められています。

また、LiDAR並みの解像度を備えたミリ波レーダーが登場してきました。テスラは高精度カメラとAIを主体としてシステムを組み、LiDARや高精度3次元地図を使わない方針を示しています。自動運転車システムの開発を巡る主導権争いは激しさを増しており、LiDAR以外の技術が普及していく可能性も残されています。

LiDARの方式

車載用LiDARの開発初期は、レーザーモジュールをモーター駆動により360°回転させるメカニカル方式が主流でしたが、「小型・軽量化が困難で設置場所が限定される」「開発コストが高い」「回転部の振動に対する耐久性が低い」といった問題がありました。

それらの課題を克服するために開発され、主流になりつつあるのが、回転機構を半導体技術や光学技術で置き換えた、ソリッドステート式のLiDARです。回転しないためレーザーの検知範囲は狭くなりますが、小型で設置場所の自由度が高い複数のLiDARを組み合わせることで、360°の全方位検知に対応できます。

ソリッドステート式の代表的なスキャン方式が、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)式です。半導体の微細加工技術によって集積化された微小電気機械システムを機構部分に採用し、レーザー光の走査にシリコンMEMSミラーを用います。ミラーは永久磁石と電磁石で稼働させるため、摩擦がなく高速かつ高精度のビームステアリングが可能です。MEMS式には、テレビ受像機やディスプレーと同じ方式でレーザーを照射するラスタースキャン方式や、小型ミラーを立体的にうねるように動かすことで広角のセンシングが可能なウォブリングスキャン方式などがあります。

また、LiDARの距離測定には光の飛行時間を測るToF(Time of Flight)を使うのが主流ですが、ミリ波レーダーで使われてきた測定手法のFMCW(周波数連続変調)方式を採用したFMCW LiDARが開発段階にあります。時間とともに周波数が直線的に上昇するように変調した電波を連続的に照射し、送信波と反射波の周波数差から距離を求めます。天候の影響を受けにくいのが特徴で、高解像度を得られ、長距離でも性能が安定すると期待されています。

他にも、近赤外光もしくは青色光で動作するオンチップの光フェーズドアレイ(Optical Phased Array:OPA)を利用した方式も開発が進んでいます。

LiDARに使われる部品

LiDARのレーザーには近赤外線が用いられ、センシング光源として半導体レーザーを使います。波長905nmの近赤外線にはシリコン半導体レーザーが使われ、安価で大出力が得られるメリットがある一方で、目への安全面で不安があります。

目に優しい波長1550nmの近赤外線には化合物半導体レーザーが使われています。太陽光の影響が少なく、より遠方まで検知できるメリットがありますが、十分な出力を得るのが難しいというデメリットもあります。

LiDAR向けに高出力で高効率、さらにビームサイズの小スポット化が可能で安全な半導体レーザーのニーズが高まり、フォトニック結晶レーザーを用いた空間走査方式への注目も増してきています。CMOSプロセスで安価に大量生産ができれば、車載LiDARとして採用が広まる可能性があり、各社が開発を進めています。

LiDAR(ライダー)のこれから

これからLiDARは、自動運転の分野で普及していくと見込まれています。しかし、低価格で実用化が進んでいるToF方式のLiDARを搭載した自動車が増えると、自車ではなく他車の発したレーザーを誤って受信するリスクが高まると懸念されています。

自車の発したレーザーを識別して安全な自動運転を実現するには、レーザーをパルス照射するToF方式ではなく、連続照射するFMCW方式のLiDARが必要です。現在、FMCW方式のLiDARは、ToF方式に比べて10倍ほどのコストがかかるとされ、普及にはコストの低下が求められています。
もう一つのLiDARの課題として、コヒーレンス長(可干渉距離)が挙げられます。LiDARはレーザーを対象物に反射させて使うため、往復分の干渉を維持しなければいけません。つまり、測定したい距離の2倍のコヒーレンス長が必要です。現在の技術では実用品で50mほどまで計測できますが、高速道路などで活用するには300mほどまで伸ばす必要があると言われています。

高性能な部品を使えば解決できますが、そのぶんコストが高くなります。そのため、ハードウェアではなくソフトウェアを活用してデジタル処理することにより、コヒーレンス長の不足を補う手法が検討されています。

また、シリコンフォトニクスの活用も期待されています。シリコンフォトニクスの技術を使えば、レーザーを発信したり受信したりする機能を、半導体のチップ上に展開することが可能です。高性能な部品を使う必要がなくなるため、大幅にコストを削減できるほか、車載用LiDARに要求される小型化も進むでしょう。

まとめ

近年のLiDARの進歩は目覚ましく、ADASに活用できるまで性能と信頼性が向上してきました。車載向けとなると一部の高級車に限られていますが、低価格化の進展具合によっては、大衆向けの量産車に搭載される日もそう遠くないかもしれません。

また、広範な産業分野でモビリティの自動化ニーズは高く、今後のLiDAR市場の拡大は確実とされています。一方で、AIカメラやミリ波レーダーのセンシング技術も向上しているため、LiDARが競合技術と比べてどこまで存在感を高められるかが、LiDARの技術開発における今後の課題となっていくでしょう。

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