再生可能エネルギーと親和性の高い「レドックスフロー電池」――住友電気工業

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住友電気工業株式会社 エネルギーシステム事業開発部 RF電池部 電池設計グループ 主査 越智 雄大氏


GREEN×GLOBE Partners (GGP) は、三井住友フィナンシャルグループが運営する環境・社会課題解決のためのコミュニティです。今回、環境・社会課題解決の「意識」と「機会」を流通させることを目的として活動するGGPとの連携企画として、GGPパートナー各社へのインタビューを通して、サステナブルな取り組みを広く情報発信いたします。

第1回は、住友電気工業株式会社の「レドックスフロー電池」について、同社エネルギーシステム事業開発部 RF電池部 電池設計グループ 主査の越智 雄大(おち ゆうた)氏に伺います。

レドックスフロー電池とは、簡単に言うと各極内に循環する電解液に含まれる活物質の酸化還元反応を利用した、半永久的に使用できる次世代の電池です。最先端の製品や技術の紹介、導入事例や環境課題解決の成果、今後の展望などをご紹介します。(執筆:後藤銀河 写真・資料提供:住友電気工業株式会社)

熱源不要で長寿命、そして安全の謎

――まず、レドックスフロー電池について、ご紹介いただけますか?

[越智氏]レドックスフロー電池(以下RF電池)は、電解液をポンプで循環させ、イオンの酸化還元反応によって充放電を行う大型充電池です。基本的な構成機器としては、セルスタック、活物質の溶液である電解液、電解液を貯蔵するタンク、電解液をセルに循環させるポンプがあります。弊社では電解液として硫酸バナジウム水溶液を用いております。

[越智氏]RF電池の反応の原理ですが、電解液を循環させる形の電池で、電流を流した際に正極と負極それぞれでバナジウムイオンが価数変化することに伴った電池反応が起こります。

充電時、正極では4価のバナジウムイオンが酸化されて5価に、負極では3価のイオンが2価に還元され、放電の際にはその逆の反応が起きます。正極と負極における電子の数を調整するため、両極を隔てている隔膜を通して、プロトン(水素イオン)が移動し、これによって電流が流れるという原理です。

セルスタックは、1枚のセル(単セル)が複数積層された構造です。単セルの構成としては、中央に隔膜があり、それを正極と負極の電極で挟み、単セルを接続するための双極板と、双極板を支えるフレームから構成されています。

レドックスフロー電池の原理と構成図。出典:住友電気工業株式会社 レドックスフロー電池 説明資料

――他の種類の電池に対するRF電池の優位性・特徴を教えていただけますか?

[越智氏]大容量の蓄電池として一般的によく知られているものとしては、リチウムイオン電池、ナトリウム硫黄電池などがあります。昨今、導入拡大によりリチウムイオン電池での火災事故が報告されていますが、RF電池は不燃性の電解液と、難燃性の材料でできた設備であり、極めて火災耐性の強い電池です。また、他の電池ではサイクル数の寿命という観点での制限がありますが、RF電池は原理上サイクル数による寿命がなく、多様なパターンでの充放電に対応できます。これは、充放電時に水溶液中に含まれるバナジウムイオンの価数変化のみが起こり、極板の溶解や金属の析出が起きないため、充放電によって電解液が劣化することがなく、半永久的に利用できるということです。また、常温で運転するため、ヒーター等の熱源が不要です。

[越智氏]弊社のRF電池の特徴としては一組の正極負極の電解液のタンクから、複数のセルスタックへ電解液を循環する構造としているため、セルスタック同士の充放電の状態が等しくなります。また、充電残量をリアルタイムで正確に計測できるのもRF電池の特長であり、これを活用することで、不規則に発電する再生エネルギー源に接続されたとしても、充放電状態を正確に把握でき管理が容易になります。

また、電池の出力はセルスタックの台数に依存し、時間容量は電解液の量に依存します。そのため、セルスタックに依存する出力と、電解液量に依存する時間容量を、独立に設計することができ、設計面での自由度が高いというメリットもあります。簡単に言えば、時間容量を増やしたいならタンクを大きくして電解液量を増やせばいいということです。

より汎用性の高い次世代電池への挑戦

――RF電池にとって最大の課題は何ですか?

[越智氏]最大の課題はコストです。再生可能エネルギーと蓄電池を含めると、既存の発電システムに比べてコスト高となるため、費用対効果、経済性を成立させることが重要な課題ですね。電解液に使用しているバナジウムは鋼材の強度を高めるための添加物として昔から使われているレアメタルですが、産出地域が偏在化しており、その地域の情勢によって価格が急騰したり下落したりと、価格変動が非常に大きいという問題があります。

また、RF電池は設備の大型化には適しているが、逆に小型化が難しいという課題もありました。しかしながら、一般の需要家では小型システムのニーズも多く、今後は更に増加していくことが予想されるため、小型のシステム開発にも挑戦しています。

――ネオジムやセリウムなどのレアアースのように、バナジウムも代替材料の検討が進んでいるのでしょうか?

[越智氏]弊社の現行の製品ではバナジウムを使っていますが、それと並行して新しい金属イオンを用いたRF電池の研究も行っています。代表例としてはチタンとマンガンを用いた電解液の開発を進めています。こうした元素はバナジウムに比べて調達も容易で、価格変動も少ないだろうと考えています。

ライフサイクルコストの観点からは、セルスタック内での充放電に伴う劣化がないこと、電解液は半永久的に利用できるといった特長により、20年間など長い運用期間を考えると、その間、主要なコンポーネントの交換が不要ということから見ると、決して他の電池よりもコストが高いわけではありません。ただ、初期の価格競争力も重要なため、チタン、マンガン系などバナジウム以外の金属イオンをつかうRF電池の研究を進めています。

自律分散型のエネルギー循環——スマートグリッド構想により、開発が再加速

――RF電池はいつ頃から開発されているのでしょうか?

[越智氏]実は50年近い歴史がある電池で、1949年にCr/Cr系についての最初の特許がドイツで出願された後、1974年にはNASAで原理が発表されました。弊社では1985年に電力貯蔵用途として開発をはじめました。これまで国内外含めて30件ほどの納入実績があります。

2000年の初頭にバナジウムの価格が急騰したなどの要因で、一時期事業活動が滞った時期がありますが、その後、アメリカのオバマ大統領が掲げた「グリーン・ニューディール政策」に伴うスマートグリッド構想に沿う形で、欧米で再生可能エネルギーの導入が本格化しました。

太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーは、日照時間や気候などによって発電量が大きく変動するため、この変動をどう吸収するかが大きな社会問題になったのですが、この再生可能エネルギーの欠点を補うものとして、大規模な蓄電池を求める声が高まり、現在のRF電池の第2期ともいえる開発につながりました。

――具体的な実証機の事例をご紹介いただけますか?

[越智氏]具体的な事例として、北海道電力株式会社様との共同事業で、経済産業省の大型蓄電池システムの実証事業があります。出力15MW、容量60MWhという規模の設備で、実証期間は2013年から18年、現在は実証は終了しており、引き続き、北海道電力NW株式会社様の調整力として実運用されています。

[越智氏]次にご紹介する事例は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の実証事業で、カリフォルニアの電力・ガス会社に納入したものです。RF電池の特徴のひとつに、高い安全性があります。具体的には不燃性の電解液と、難燃性のセルスタックなどの機器を使用しているため、火災が発生しにくいという特徴があります。このプロジェクトでは、RF電池として、安全性にかかわる認証を初めて取得いたしました。

――RF電池の導入は順調に拡大しているということでしょうか。

[越智氏]再生可能エネルギーの多くは、天候や気象などに左右されやすく、使いたいときに使えないという問題があります。このため、再生可能エネルギーの導入に際しては大容量の蓄電池の重要性は高いと考えています。

また、東日本大震災以降、防災用途での蓄電に対するニーズは高まっており、事業規模も年々拡大傾向にあります。次にモロッコでの導入事例を用いて、RF電池で何が実現できるのかを説明いたします。

[越智氏]このプロジェクトは、電力インフラが整備されていないアフリカ・モロッコの無電化地域での電力供給手段として、太陽光発電と蓄電池を組み合わせたマイクログリッドの実証をするというものです。日の出から日没までという太陽光の長周期変動と、雲で太陽が隠れるといった短周期変動の両方に対応した充放電と、最小限のメンテナンスによる運用が求められました。

RF電池には、電解液が劣化しないため、サイクル劣化を防ぐための運転制約が少ないという特徴があり、こういった用途には非常に適しています。全ての構成機器をコンテナ内に統合したオールインワン型のRF電池を導入することで、現地での配管接続などの工事も最小限となり、アフリカにおいても設置工事を短期間で完了することができました。

実際の実証では、晴天時の日没に伴う発電量の減少分をRF電池の充放電によって補填できることを確認しました。曇天時においても、短周期の発電量の太陽光出力変動を十分に早い応答速度で補填し、安定して運用できることを確認しました。

――最後に、GGPの活動に参加され、サステナブルな製品を社会に提供していくことに対するお考えをお聞かせください。

[越智氏]今、地球規模でさまざまな環境問題が起きています。その中でも地球の温暖化という観点から多大な影響を与えているものが温室効果ガスであり、その大きな要因として化石燃料から発生するCO2があります。CO2を排出しない再生可能エネルギーの利用は、これからどんどん伸びていく分野だと考えていますが、その中で課題となるのは、出力変動の制御・調整や安全性、コストなどであり、当社のRF電池事業を社会課題の解決に貢献できる事業に拡大していければと考えています。

取材協力

住友電気工業株式会社
GREEN×GLOBE Partners


ライタープロフィール
後藤 銀河
アメショーの銀河(♂)をこよなく愛すライター兼編集者。エンジニアのバックグラウンドを生かし、国内外のニュース記事を中心に誰が読んでもわかりやすい文章を書けるよう、日々奮闘中。


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