医療ロボットの今後と、開発に求められるエンジニア像とは――医療系テックの最先端を聞く

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朝日サージカルロボティクス株式会社 代表取締役社長 安藤岳洋氏

今回の連載では医療系テックにフォーカスし、国産の手術支援ロボットの開発、製品化に取り組む朝日サージカルロボティクス株式会社代表取締役社長の安藤岳洋氏にお話を伺ってきました。

第1回は「臨床の現場で医師をサポートする医療ロボット」として医療ロボットの概要について、第2回は「産業ロボットと医療ロボット、その違いとは」を取り上げてきました。最終回は、医療ロボットの今後、そして医療ロボット開発に携わるエンジニアとして求められるスキルなどを、ご紹介します。(執筆:後藤銀河、写真・画像提供:朝日サージカルロボティクス株式会社)

<プロフィール>
朝日サージカルロボティクス株式会社 代表取締役社長 安藤岳洋氏
2012年 東京大学大学院工学系研究科修了
2012年 同大医用精密工学研究室助教
2015年 株式会社A-Traction創業 代表取締役社長に就任
2021年 朝日インテック株式会社による子会社化が完了、社名を朝日サージカルロボティクス株式会社に変更

特許が切れたことで他社の参入が加速

医療ロボット市場では、先駆者であるインテュイティブサージカルの「ダビンチ」が1強だと伺いました。今後の市場の動向について教えてください。

[安藤氏]30年前から継続して開発されてきたダビンチは、強い特許で様々な領域を押さえており、結果として市場を独占し、他に選択肢がないという状況を生み出していました。ただ、初期の特許が失効し始めたことで、ここ5年ほどの間に世界中でダビンチシステムのような医療ロボットの開発が始まりました。

医療ロボットは、全ての医療機器がそうであるように、安全性などに関する厳格な基準に合格し、認証を取得する必要があるなど、家電製品などと比較して製品化のハードルが非常に高いという課題はありますが、ダビンチと競合するようなロボットを開発する企業も参入してきていますから、今後状況は変わっていくでしょう。ダビンチ以外の選択肢が出てくることで、医療用ロボットの市場はさらに拡大するとみています。

前回、ダビンチ型ロボットは、自動ロボットではない「完全操作型」だと言いましたが、そう遠くない将来には、医療の分野でも、AIを搭載してある程度は自律的に動作するロボットが登場するでしょう。人間の体は一人ひとり違いますし、ラベルも目印もありませんが、構造が全く違うわけでもありません。うまく特徴を捉えてタグ付けすれば、医療ロボットの自動化も不可能ではないと思います。

――医療ロボットの導入にはどれくらいの費用がかかるものでしょうか。

[安藤氏]あくまで概算ですが、ダビンチの導入は2~3億円と言われています。手術に医療ロボットを使ったとしても、特に加算があるわけではないので、コストは病院の持ち出しになります。それでも導入が拡大しているのは、確かなメリットがあるからだと思います。

弊社のロボットの場合、導入コストは3~5000万円程度を想定しています。もちろんダビンチと機能が違うので単純な比較はできませんが、小回りの利くベンチャー企業の特徴を生かし、既にダビンチを導入している大病院ではなく、ある程度の腹腔鏡手術を行っているが少し人手が足りていない、という中規模程度の病院をターゲットとしています。

当社は、医療ロボットをやると決めたわけですが、開発に必要なコストや期間の見積もりから製品化に向けたスケジュールまで、技術的および収益化の難易度を把握することは難しく、最も重要な点でした。

――医師が御社のロボットを使うことで、助手に相当する人件費が削減できる、あるいは手術に参加する助手が不足しているような場合でも手術を行うことができる、それがメリットであり、セールスポイントになると判断されたということですね。
では次の質問ですが、ものづくりベンチャーが開発フェーズから量産フェーズに向かう中で直面する障壁として「魔の川」「死の谷(量産の壁)」があると言われています。御社では大半のエンジニアが中途採用だと伺いましたが、医療ロボットの開発・製造という流れで特に苦労された点を教えてください。

[安藤氏]私自身がアカデミアの出身で何かを製造したという経験がありませんから、特に製品を作るという点で製造の経験があるメンバーは必須だと感じました。また、医療機器という枠組みにはロボティクスという要素はほとんどありませんので、ロボティクスをやる上で、ロボット開発の経験があるエンジニアが、どうしても必要になります。

ただ、大手製造業とベンチャーとの違いがあることは、忘れてはならない重要な点です。当社がメカトロをやっているということもありますが、一般的に製造業は分業体制をとっていることが多いと思います。メカはメカだけ、しかもメカのこの部分だけという体制に慣れているわけですが、小さくていろいろなことをやらなければいけないベンチャー企業では、そういうやり方に固執しすぎると、仕事をアサインしにくく、採用しづらいと感じています。

ベンチャーでは全体のバランスがみられるエンジニアが求められている

[安藤氏]研究開発に近く、かつメカトロをやっているようなところでは、専門分野プラス周辺分野についても、ある程度は口を出して、全体のバランスがとれるように動けるエンジニアが、自分の技術力を高めていけるのだろうと考えています。また、医療ロボットの領域では、エンジニアとしての知識だけでなく、医学的な知識、薬事についての知識も、自分なりに努力して吸収していくという意識を持つことが大切です。

――ありがとうございます。では最後に、ご自身がエンジニアとして心掛けていること、後輩のエンジニア諸子に向けてメッセージをいただけますか?

[安藤氏]私の基本は、自分が楽しいと思うことをやることです。大切なのは、他の何を差し置いてもそれをやりたいと思える、自分が熱中できることを見つけること。それがモチベーションとなり、技術や知識を高めていくうえで、最も大切な要素だと考えています。

私は、大学で医療機器の研究をしていましたが、学会などで研究発表をしても、現場で働く医師からの「臨床はいつになるのか」という問いに明確に答えることができず、もどかしく感じていました。私の場合、この医療の現場をサポートしたいという強い思いが、起業の動機にあります。

ベンチャーに籍を置き、そこでエンジニアとして医療ロボットの開発を目指すのであれば、自分の専門分野だけでなく、医学的な知識、薬事についても積極的に勉強し、開発の周辺まで目を配りながら周りとしっかりと連携し、開発全体のバランスを取れることが求められます。それがエンジニアとしての技術を高め、結果として自分の付加価値を高めることになると思います。

取材協力

朝日サージカルロボティクス株式会社



ライタープロフィール
後藤 銀河
アメショーの銀河(♂)をこよなく愛すライター兼編集者。エンジニアのバックグラウンドを生かし、国内外のニュース記事を中心に誰が読んでもわかりやすい文章を書けるよう、日々奮闘中。


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