空間分解能が高く可逆性のある機械的圧力測定フィルムを開発――メカノクロミック分子を薄膜化 名大ら

名古屋大学は2022年7月20日、同大学大学院工学研究科と東京都立産業技術研究センターと共同で、押圧で見た目の色の変化を与えるクロミック分子を用いて、空間分解能が高く、かつ可逆性のある機械的圧力測定フィルムを開発と発表した。機械産業等で用いることができる、安価で繰り返し使用できる空間分解能の高い「クロミック圧力測定フィルム」を実現できる。

機械的応力で色が変化するメカノクロミズ厶現象は、その刺激応答性から、圧力センサーや記録デバイス、ディスプレイデバイスなどへ応用が期待されている。これまで定性的にメカノクロミック分子の色の変化について議論されているが、これは定量的に刺激を加える方法や色の変化を検出する方法が確立されていないことが原因となっていた。

研究では、機械的刺激で分子構造が折れ曲がり型からねじれ型に変化することで、黄色から緑色へ見た目の色が変化する「フルオレニリデン-アクリダン」を用い、これまで不明だった圧力応答性や応答の空間分解能について定量的測定した。

フルオレニリデン-アクリダンのメカノクロミズムの原理

定量的かつ均一に機械的刺激を加えるため、真空蒸着でフルオレニリデン-アクリダンの薄膜サンプルを作製。メタノールの蒸気に、得られたねじれ型構造の青色膜をさらすと、一晩程度で折れ曲がり型構造の黄色膜へと変化することがわかった。平坦なシリコンモールドを黄色薄膜にナノインプリントで押しつけ、垂直応力を定量的に加えたところ、加えた応力の強さに応じて、黄色薄膜が黄色から緑色へ変化を示した。

蒸着膜のメタノール暴露による時間経過 (i)暴露前(ii)1.5時間(iii)3時間(iv)12時間

ナノインプリントによる垂直応力 (i) 0MPa (ii)100 MPa (iii) 150MPa (iv) 200MPa (v)250Mpa (vi) 300MPa (vii) 350MPa (viii) 400MPa (ix) 450MPa

紫外可視分光光度計で測定した結果、垂直応力を加えた薄膜サンプルは、応力の強さに応じて黄色~緑色の波長範囲の反射ピークが減少。表面電位顕微鏡(KFM)でメカノクロミズムを分子構造の変化に起因した電気特性の変化として捉えると、応力の強さに応じて表面電位が高くなることが明らかになった。

次に、ナノインプリントで押しつけることで、 垂直応力の加わる範囲を制御した薄膜サンプルを準備した。KFMを用いた測定をサンプルに実施し、フルオレニリデン-アクリダンのメカノクロミズムの 空間分解能を調査。その結果、フルオレニリデン-アクリダンのメカノクロミズムは、50nm以下の優れた高分解能を示すことが証明された。また、アルコールの蒸気暴露や噴霧によリ、垂直応力を加えた緑色薄膜が黄色へと戻ることがわかった。

ナノメートルスケールの優れた分解能特性は、フルオレニリデン-アクリダンのメカノクロミズムが1分子ごとの構造変化に由来していることを証明している。研究の成果は、圧力測定フィルムなどのセンシング材料への発展が期待される。

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