色素増感型光触媒の太陽光エネルギー変換効率が、緑色植物の光合成並みに向上 東工大

東京工業大学理学院化学系の西岡駿太特任助教、前田和彦教授らの研究グループは2022年8月18日、絶縁体酸化物とポリマーで、色素増感型光触媒を修飾し、太陽光エネルギーにより水から水素を製造する光触媒反応の効率を従来の約100倍まで高めることに成功したと発表した。緑色植物の光合成並みの太陽光エネルギー変換効率に到達した。

太陽エネルギーにより水を水素と酸素に分解する光触媒反応は、有望なエネルギー変換方法として注目されているが、可視光はエネルギーが小さく、水分解反応の速度が通常の光触媒では遅い点が最大の課題とされている。

研究グループは、この課題の解決策の一つとして、酸化物ナノシート光触媒HCa2Nb3O10に、色素分子としてルテニウム錯体を吸着させた色素増感型の水素生成光触媒を酸化タングステン系の酸素生成光触媒と組み合わせた水分解反応系を構築。ヨウ素系電子伝達剤(I3/I)の存在下で、可視光により、水を水素と酸素に完全分解できることを発見している。

しかし、2種類の光触媒と電子伝達剤を利用するZスキーム型光触媒システムでは、水素生成に可視光で励起された電子が使われる前に、ルテニウム色素や電子伝達剤と反応することがあり、逆反応は水素生成効率の低下につながる。研究グループは、ルテニウムとの逆反応を防ぐ手法は開発していたが、電子伝達剤との逆反応を防ぐ手法は開発できていなかった。

色素増感Zスキーム水分解系

研究グループは、水素生成系が電子伝達剤を還元する逆反応(I3 + e → I + I2)は、水素生成系とI3が接近することで進行することから、互いが近づきづらい状況をつくることに着目。具体的には、接近をI3との静電的な反発で阻害できる、負に帯電したアニオン性ポリマーの修飾で、水分解効率を飛躍的に向上した。

ポリマー修飾の効果を、ルテニウム色素(Ru)を吸着した白金(Pt)担持酸化物ナノシートに、逆電子移動抑制効果を持つ酸化アルミニウム(Al2O3)を修飾した水素生成光触媒(Ru/Al2O3/Pt/HCa2Nb3O10)を用いて調べた。その結果、水分解活性はポリマーを単独で修飾した場合にも向上したが、ポリマーとAl2O3の共修飾では、活性が無修飾のものから約100倍に向上した。

表面修飾と太陽エネルギーの水素への変換効率

最適化したシステムでは、太陽エネルギーの水素への変換効率の0.12%、見かけの量子収率の4.1%(波長420nmでの値)を達成。色素増感型光触媒を用いたZスキーム水分解システムでは、いずれも世界最高値となっている。

また、反応機構の調査では、ポリマーの修飾で、水素生成系とI3の反応に加え、Iとの反応も抑制。さらに低濃度のI3共存下に限り、光触媒活性が逆反応の抑制で向上する。

色素増感水素生成反応のメカニズム

この触媒は、水分解反応を弱い光を利用して駆動できることが特長に挙げられる。太陽光の半分の強さの光の照射でも、太陽エネルギーの水素への変換効率は0.12%から低下しなかった。

弱い光を利用した発電能力が強みとして挙げられる色素増感型太陽電池は、性能向上に向け、電子伝達剤の逆反応が障壁となっているが、今回の研究で開発した表面修飾方法の応用により、発電効率の向上が期待できる。

今回記録した太陽光エネルギー変換効率と見かけの量子収率は、一般的な光触媒と比べても数値がトップクラスに高く、色素増感型光触媒の新たなベンチマークとなった。これにより、革新的な色素増感型光触媒の創出に大きく前進したといえる。今後、色素の分子設計や修飾するポリマーの検討により、性能がさらに向上することが見込まれる。

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