MIT、シリコンより優れた「理想的な半導体」を発見

立方晶砒化ホウ素(c-BAs)は、これまで発見された最高の理想的な半導体材料であり、大きな可能性を秘めている。/Credits:Image: Christine Daniloff, MIT

MITとヒューストン大学などの共同研究チームは、立方晶ヒ化ホウ素(c-BAs)が、微細デバイスの放熱性に有効な高い熱伝導度を有するとともに、電子輸送と正孔輸送の両方を兼ね備える高い両極性移動度を発揮することを実験的に示した。高純度処理されたc-BAs単結晶の局所的な測定により、シリコン(Si)を超える高い熱伝導度と両極性移動度を持つことを実験的に確認したもので、Siを超える理想的な半導体として広汎な応用が期待できる可能性がある。MITとヒューストン大学、テキサス大学オースティン校、ボストンカレッジの共同研究チームによる論文が、2022年7月21日に『Science』誌に公開されている。

Siは地球上にある最も豊富な元素のひとつで、太陽電池からコンピューターチップまで、さまざまな半導体デバイス技術の基礎になっている。だが、Siの半導体としての特性は、必ずしも理想的とは言えない。例えば、Si結晶中において電子は容易に高速移動できるが、正電荷である正孔の移動度は高くなく、励起子など電子と正孔の対による電子光学的な効果が期待できない。さらにSiは熱伝導性が低いため、微細化が進むデバイスにおける過熱の問題があり、冷却システムの高コスト化といった問題がある。レーザなどで用いられるガリウム砒素などの材料も、電子の移動度は高いが正孔の移動度が低い問題がある。

共同研究チームは、優れた熱伝導性および電子と正孔の両極性移動度が同時に高い、理想的な半導体材料を探索し、理論計算によって、c-BAsが高い熱伝導性および両極性移動度を持つことを予測していた。そして、高純度化された数mmスケールのc-BAs単結晶を作成し、周波数領域サーモリフレクタンス法および超高速レーザを用いた過渡格子分光法により、熱伝導度および両極性移動度を局所的に測定した。

その結果、測定点による変動はあるものの、熱伝導度が1200W/mK、両極性移動度が1600cm2/Vsに達することが判り、以前の予測結果を実証するものとなった。「熱伝導率はSiの約10倍であり、電気自動車用パワーエレクトロニクスにおいてSiを代替しつつある炭化ケイ素(SiC)半導体の熱伝導度がSiの3倍であることを考えると、放熱性だけでも充分魅力的だ」と、研究チームは説明する。

ただし、理想的な半導体の実現には、材料の高純度化が必須条件だとし、高純度で実用化に充分な大きさのc-BAs単結晶の実際的かつ経済的な量産技術の開発が必要だ。また、長期的な耐久性など他の特性の評価なども必要で、将来に対して大きな期待を抱きつつ、今後の研究課題は多いと研究チームは考えている。

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