電流で反強磁性体の垂直2値状態を制御する技術を開発 東大ら

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東京大学大学院理学系研究科の肥後友也特任准教授らは2022年7月21日、理化学研究所、東京大学物性研究所、東京大学先端科学技術研究センター、東京大学物性研究所、Xianzhe Chenと共同で、反強磁性体において、従来の強磁性体から構成されるMRAMで用いられている垂直2値状態を実現し、この垂直2値状態を電気的に制御することに成功したと発表した。MRAMをはじめ、反強磁性体を用いた電子デバイス開発の飛躍的な進展が期待される。

研究グループは、マンガン(Mn)とスズ(Sn)からなるカイラル反強磁性体Mn3Snの研究を行っており、磁極を持たない反強磁性体では検出が困難だと信じられてきた異常ホール効果や異常ネルンスト効果、磁気光学カー効果などの読み出し信号を室温で検出できることを明らかにした。また、2020年には磁気八極子偏極をスピン軌道トルクで反転できることを実証している。

カイラル反強磁性体Mn3Snの結晶構造と磁気構造、磁気八極子偏極による異常ホール効果

研究では、カイラル反強磁性体Mn3Snのエピタキシャル薄膜と、重金属薄膜を含む多層膜を作製。6つの方向に向く自由度を持っているMn3Snの磁気八極子偏極は、Mn3Snのエピタキシャル薄膜作製時に、カゴメ面に平行に引っ張り歪みを導入することで、自由度が膜面垂直方向のみ(垂直2値状態をとる)となることがわかった。

カイラル反強磁性体Mn3Snでのカゴメ面内の引っ張り歪みにより誘起された垂直2値状態

次に、この多層膜からなるホール電圧信号の測定用素子を作製。書き込み電流によるホール電圧の変化を室温で測定したところ、素子が出力する信号は、14MA/cm2程度の書き込み電流によって、100%反転できることを確認した。

この実験結果は、素子の全域で、垂直方向を向いた拡張磁気八極子偏極を電流制御できていることを示している。磁気八極子偏極の向きを可視化できる磁気光学カー効果顕微鏡での測定でも、同様の結果が得られた。

数値計算の結果、磁気八極子偏極の回転面を、スピンホール効果で生じたスピン流のスピン偏極方向に対して垂直に配置することが、カイラル反強磁性体の高効率な情報記憶の鍵であることがわかった。研究では、カイラル反強磁性体Mn3Snにて、素子全域にわたり拡張磁気八極子が作る垂直2値状態が電気的に制御できることを実証した。

また、これまでの反強磁性体素子を用いた研究では10MA/cm2程度の書き込み電流では、全体のうち数10%程度の面積に由来する信号しか制御できなかったが、薄膜作製時にMn3Snの反強磁性秩序(磁気八極子偏極)が作る垂直2値状態の電流制御を実証することで、原理的に、カイラル反強磁性体で超低消費電力かつ、信頼性の高い情報記録デバイスを作製できることが明らかになった。

一般的な反強磁性体は、2方向の書き込み電流用端子が必要となるが、カイラル反強磁性体Mn3Snは、強磁性体の場合と同様に1方向の書き込み電流用端子に流れる電流の向き(符号)で、拡張磁気八極子偏極が作る「0」と「1」の状態を制御できる。今回の研究から、この磁気八極子偏極は、垂直2値状態を10MA/cm2程度の書き込み電流で制御できることがわかった。

これらの結果は、カイラル反強磁性体を用いることで、反強磁性体をベースとしたMRAM応用の大きな課題を解消できることを示している。また、この情報記憶手法は、垂直磁気異方性が大きくなるほど記憶速度が速くなること、垂直2値状態の熱安定性が高くなることが理論的に示唆されている。歪みにより、拡張磁気八極子偏極の垂直磁気異方性が増強できることも研究を通してわかってきている。

磁石として知られる強磁性体の磁極(N極とS極)の向きを「0」と「1」の情報として不揮発に記憶できるMRAMは、低消費電力性を有することに加え、大容量、高書き換え耐性を満たし得る不揮発性メモリであり、次世代半導体技術の本命として期待されている。

反強磁性体は、強磁性体の場合(ナノ秒)に比べ、スピンの応答速度が100~1000倍速いピコ秒で、磁性体間に働く磁気的な相互作用が小さい。不揮発性メモリの有力候補であるMRAMに応用すると、MRAMを超高速化、超低消費電力化、高集積化できるため、近年、反強磁性体における情報の書き込み、読み出し技術が盛んに研究されている。

しかし、反強磁性体のMRAMは、強磁性体と異なり磁極を持たず、開発では、強磁性体とは異なる書き込み手法を用いるため複雑な素子形状が必要となること、素子全域の反強磁性状態の制御が困難であることの克服が重要な課題となっていた。

今回の成果は、MRAMをさらに超高速、超低消費電力化できる材料である反強磁性体でも、垂直磁気記憶ができることを示した。今後は反強磁性体MRAMの実現へ向け、反強磁性体で期待されるピコ秒での超高速情報記憶の実証や、nmオーダーの微細素子での熱安定性の検証を歪みとの相関の理解も含めて体系的に進めていく必要がある。

また、今回開発したスピン軌道トルクによる拡張磁気八極子偏極とそれに伴う巨大な異常ホール効果の高効率な電気的制御手法は、これまで観測できなかったワイル半金属状態での非平衡物理や、それによる新しい現象の研究へつながることが期待される。

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