酸素貯蔵セラミックスを400℃の低温作動化――酸素貯蔵量が従来の13.5倍 東北大学

東北大学大学院工学研究科の高村仁教授らは、セリウム・ジルコニウム系酸化物にコバルトと鉄を固溶させ、400℃という低い作動温度で、酸素貯蔵量が従来の13.5倍を達成したと発表した。さらに、従来よりも400℃低い温度の800℃で、優れた酸素貯蔵特性を示す結晶構造を合成した。

研究グループは、コバルトと鉄で構成される酸化物(スピネル型酸化物)が強い磁性を持つことに着目。精密磁化測定で5%以下の場合、コバルトと鉄がセリウム・ジルコニウム系酸化物に固溶することを明らかにした。この5%のコバルトと鉄を含むセリウム・ジルコニウム系酸化物は、酸素貯蔵セラミックスとしては低い作動温度である400℃、貴金属なしの条件下で、既存材料の13.5倍の貯蔵量を示した。

同時に、コバルトと鉄の固溶により、酸化物表面での酸素解離と取り込み速度も向上。その温度で十分なサイクル特性を確認した。これら成果は、排ガス浄化触媒の低温作動化やパラジウム等の貴金属使用量削減に貢献する。さらに、鉄を添加したセリウム・ジルコニウム系酸化物は、セリウムとジルコニウムが規則的に配列した特殊な結晶構造(κ構造)の生成が低温で促進された。

セリウムとジルコニウムが規則的に配列した結晶構造(κ 構造)

この規則構造はより高い酸素貯蔵量を示すが、1200℃、水素中という高温での強還元処理が作製に必要で、製造プロセスが難しいことや、助触媒に求められる大きな比表面積を維持できず、実用が困難だった。しかし、今回、鉄酸化物の添加だけで、これまでより400℃低い800℃でその規則構造が出現することがわかった。

自動車産業では、電動化に加え、欧州で策定中のEuro7など排ガス規制強化への対応が最重要課題となっている。この課題への対応には、エンジンの高性能化に加えて、排ガス浄化触媒の高性能化、高機能化が必須となる。

排ガス浄化触媒は、ハニカム構造体、パラジウム等の貴金属触媒、助触媒と呼ばれる酸素貯蔵セラミックスから構成され、セリウム・ジルコニウム系酸化物である酸素貯蔵セラミックスは、排ガス浄化触媒の高性能化と貴金属使用量削減の鍵を握っている。

酸素貯蔵セラミックスは、排ガス中の炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)の除去や、過剰な酸素を吸収する役割を持ち、近年は低い作動温度でも十分な貯蔵量が求められる。また、貴金属触媒ナノ粒子の成長を抑制するため、寿命にも影響を及ぼす。

自動車排ガス浄化触媒の模式図

これまでセリウム・ジルコニウム系酸化物の高性能化、高機能化を目的に、さまざまな元素置換や製造方法の工夫がなされており、コバルトや鉄などの遷移金属添加により酸素貯蔵量が向上することは知られていたが、添加元素の存在状態や性能向上の機構は未解明だった。

この低温合成された規則構造を持つ粒子は、これまでの方法よりも比表面積を10倍以上大きく維持できるため、実用化が期待される。

今後、パラジウム等の貴金属ナノ粒子と共にハニカム型触媒に搭載し、その排ガス浄化性能や寿命の評価が望まれる。また、基礎研究の観点から、微量元素添加で酸化物の規則―不規則変態を制御する新たな手法として、多様な結晶系への展開が期待される。

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