- 2022-10-24
- 技術ニュース, 電気・電子系
- ACS Applied Energy Materials, イオン運動, ミュオンスピン回転緩和法, リチウムイオン電池, 大強度陽子加速器施設, 拡散係数, 東京理科大学, 次世代電池, 汎用µSR実験装置, 物質・生命科学実験施設, 研究, 総合科学研究機構, 高エネルギー加速器研究機構
高エネルギー加速器研究機構(KEK)は2022年10月19日、茨城県東海村の大強度陽子加速器施設(J-PARC)物質・生命科学実験施設(MLF)に設置された汎用µSR実験装置(ARTEMIS)を用いて、充放電中のリチウムイオン電池内の正極中のリチウムイオンの「自己拡散係数」の測定に世界で初めて成功したと発表した。
KEKによると、測定に成功したのはKEKや総合科学研究機構(CROSS)、東京理科大学などの研究グループ。充放電中のリチウムイオン電池内の正極材料であるコバルト酸リチウム(LiCoO2)中のリチウムイオンの拡散係数を調べるために、ARTEMISで電池容器を用いてミュオンスピン回転緩和法(µSR)による測定を行った。その結果、充電時の電圧やリチウム濃度の時間変化を明らかにするとともに、リチウムイオンの自己拡散係数DJLiが10-12~10-11cm2/sの値となることを発見。DJLiはリチウムイオン濃度の減少と共に増大することがわかった。
充放電中のリチウムイオン電池内の正極中リチウムイオンの拡散現象を測定したのは世界で初めてで、他の測定手法では決定困難だった電気化学反応面積の導出にも成功した。
リチウムイオン電池などのイオン電池では、内部でイオンが電荷を運ぶため、イオンの運動(拡散)の理解は、電池反応の理解や新たな電池材料の開発に欠かせない。これまで、イオンの拡散係数は電気化学的な手法で測定されていたが、この手法は電極作製法や充放電状態などの影響を大きく受けるため、材料固有の拡散係数を調べるのは困難だった。しかし、今回の測定方法では、適した時間スケールで材料固有のリチウムイオン拡散係数を測定できる。
研究グループでは、現行電池の動作機構の理解や改良だけではなく、次世代電池の探索や電極作製法の最適化への貢献が期待できる成果だとしている。
研究成果は2022年10月4日、米国化学会が出版する「ACS Applied Energy Materials」にオンライン掲載された。