MITリンカーン研究所、地球周回軌道でのマイクロ衛星の自律飛行をテスト――2022年5月の打ち上げ後、実証ミッション進む

Credits:Photo courtesy of SpaceX

米マサチューセッツ工科大学(MIT)リンカーン研究所のマイクロ衛星「Agile MicroSat(AMS)」が宇宙で自律飛行を実証中だ。AMSは、自律操縦による長期の低高度飛行を実証する最初の小型衛星となる予定だという。

産業目的や科学目的の小型衛星打ち上げ増加を支えるには、自律化が必要不可欠だ。自律化することで小型衛星の維持に必要なコストと人員を削減できるほか、迅速かつ緊急の対応を必要とするミッションを可能にし、既に混み合っている空での衝突防止に役立つ。

2022年5月に打ち上げられたSpaceXのFalcon 9ロケットはさまざまなミッションを搭載しており、その中にAMSも含まれていた。

AMSの主なミッションは、地球周回超低軌道(Very Low Earth Orbit:VLEO)環境での自動操縦性能をテストすることで、高度525kmから下降を開始する。VLEOは高度450km未満の軌道とされているが、衛星にとっては難しい環境だ。大気密度が高い上に、宇宙の天気も変わりやすいため、予測不可能な抗力が増大することがあり、衛星の位置を維持するために頻繁な操縦が必要とされる。民生用の電気イオン推進システムと独自のアルゴリズムを用いて、AMSは6カ月間の初期ミッションにおいて自動航行と制御がどの程度実行できるかをテストしている。

AMSの重量は12kg以下で、大きさは23×11×36cm。マイクロ衛星のサイズと電力制限をクリアしながら、VLEOでの数年間のミッション運用を可能にする推力と耐久性をもたらす電気推進機(スラスター)を使用している。

「Bus Hosted Onboard Software Suite」と呼ばれるフライトソフトウェアは、スラスターを自律的に操縦して宇宙探査機の軌道を変えるように設計された。地上にいるオペレーターはAMSに「高度300kmの軌道に降下して維持する」といった高度なコマンドを与えることができ、ソフトウェアは、搭載されたGPS受信機からの測定値をフィードバックとして用いて、コマンドを達成するため自律的にスラスター燃焼のスケジュールを立てる予定だ。この実験用ソフトウェアは、衛星バスフライトソフトウェアから切り離されているので、AMSは宇宙探査機を危険にさらすことなく、新しいアルゴリズムを安全にテストすることができる。

また、AMSには「Camera」および「Beacon」と呼ばれる2つの派生ミッションがある。Cameraミッションは、AMSがLEO上にいる間にさまざまな位置で、地球表面の写真や短い動画を撮影することだ。打ち上げ前に何カ月もかけて計画することなく、オンデマンドで運用予定を決定できる小型衛星は、災害対応活動において非常に有用となる可能性がある。例えば、火事や洪水など、何か起こったと聞いてすぐに衛星を操作し撮影できるようになるかもしれない。

もう1つのミッションであるBeaconは、移動するAMSからMITヘイスタック観測所の地上局へレーザー光を送り、高速移動するターゲットを追跡する新しい補償光学機能をテストしている。補償光学とは、地上から望遠鏡で天体観測をする際、大気のゆらぎによって劣化する像を補正する光学技術のことだ。素速く移動する衛星からの正確なレーザーポインティングが可能になれば、通信やスペースデブリの追跡など、さまざまな種類の宇宙ミッションに役立つ可能性がある。

AMSは2022年6月1日に最初の画像を撮影し、同年7月にスラスターの試運転を完了して、VLEO上の目標位置に向かって降下を始めた。

関連情報

Tiny satellite tests autonomy in space | MIT News | Massachusetts Institute of Technology

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