一つの超短レーザーパルスで、ダイヤモンド量子センサ源をmmレベルの広域で形成 京大と東海大

京都大学は2023年3月15日、同大学化学研究所と東海大学の研究グループが、一つの超短レーザーパルスをダイヤモンドに照射し、窒素-空孔(NV)中心をmmレベルの広域で形成したことを発表した。一つのパルスで、従来の100倍以上の広域で形成することに成功している。

ダイヤモンド中のNV中心は、超高感度センサや量子情報素子応用の観点から注目されている。センサの観点からは磁場、電場、温度、圧力などの高感度センサとしての応用が期待され、NV中心による量子センサは高空間分解能、かつ高感度を要求される細胞内計測、生命科学分野や微細なデバイス評価装置用センサなどへの応用も期待されている。

センサの感度は、一度に計測するNV中心の数を増やすことで、空間分解能は悪くなるが、飛躍的に感度を高めることができ、固体でありながら室温でも、超伝導量子干渉計並みの高感度が期待できる。

これまでフェムト秒(fs)レベルの超短パルスレーザーを用いてNV中心を作製したという報告はあったが、ダイヤモンドはグラファイト化しやすく、フルーエンス(1cm2あたりのパルスエネルギー)を抑えて多数のパルスを照射しており、NV作製領域はμm程度が最大だった。

今回、フェムト秒レーザーとして、化学研究所先端ビームナノ科学センターで独自開発された高強度短パルスレーザーを用いた。十分なフルーエンスを維持しながら、従来よりも格段に大きなビームスポットが実現できるもので、パルスの時間幅35fs、パルス1発のエネルギーが最大500mJに達する。

ダイヤモンド試料に、従来の研究例よりも10倍以上大きいスポットとなる直径41μmのスポット径を持つレーザーパルスをさまざまな回数、フルーエンスのパルスを照射したところ、グラファイト化閾値を超える高いフルーエンスで照射する場合、照射領域で、パルス1回照射で照射領域にNV中心が形成できた。

次に、パルス照射回数を1回に固定。フルーエンスを増やしながらダイヤモンド基板に照射すると、10J/cm2程度でビームスポット径と同じ大きさまでNV中心が形成された。さらにフルーエンスを上げていくと、測定した限りフルーエンス54J/cm2のときに、形成領域が100μmまで拡大した。

しかし、レーザーのポテンシャルを十分に引き出せていないことから、今度はエネルギー100mJ台のパルスを用いて、十分なフルーエンスを維持しながらミリメートルサイズのレーザースポット径を照射することを考えた。様々な調整を行い、最終的にダイヤモンド基板に、パルスエネルギー166mJ、フルーエンス33J/cm2、スポット径1.13mmのパルス光を照射した。照射領域の複数箇所で発光スペクトル測定した結果、NV中心に由来するスペクトル形状が得られ、パルス1回の照射でmmサイズの領域にNV中心が形成された。

レーザー光照射によるNV中心の生成機構は、十分に解明されておらず、一つのレーザーパルスのみで、高温アニール処理を施すことなくNV中心を作製できたことは、レーザー光照射による生成機構を解明する点で学術的に重要と言える。

研究グループは今後、3次元的に広い領域での作製実証を目指す。さらに、それを用いた量子センサの高感度化も実証していく。ダイヤモンドを用いた高感度量子センサは、極めて高い感度が要求される分野での適用が期待されていることから、これらの実証実験への展開も予定している。

関連情報

一つの超短レーザーパルスでダイヤモンド量子センサ源を広領域で作製―超短時間でダイヤモンドを超高感度量子センサに― | 京都大学

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