人工的な多細胞体の自己組織化で、分子ロボットを作る新手法を開発 東北大学

東北大学は2023年3月28日、同大学大学院工学研究科の研究グループが、人工的な多細胞体から分子ロボットを作るための新たな手法を開発したと発表した。脂質をコーティングしたスポンジから直径200μmほどのミクロな液滴をしぼり出し、水面で液滴が次々と集合/連結することで、全長3cmほどの天然の多細胞組織の形状に似た多区画構造を作る。

研究グループはこれまでに、細胞の膜を作っているのと同じ脂質分子を使い、人工細胞とも呼ばれる「細胞型の分子ロボット」を作る研究を進めてきた。個々に独立した単細胞型の構造に注目してきたが、望みの機能を1種類の人工細胞にすべて導入することが困難なことや、収率が高くないという課題があった。

そこで今回、疎水性スポンジにリン脂質と合成界面活性剤を塗布した材料を使用した、簡単な自己組織化技術を開発した。スポンジに水を含ませると、スポンジに塗布した脂質と界面活性剤とが親水性と疎水性のバランスによって自己組織化し、スポンジ内部に水を染み込ませる。

油の中にこのスポンジを入れると、水がスポンジから飛び出し、ミクロンサイズの脂質で安定化された液滴が自然に形成される。ピペットでこの液滴の集団を吸い出し、水面に垂らすと、レンガを組み合わせて壁を作るように、より大きな平面的な巨視的構造体へと自発的に素早く集合する。この技術により、直径200μmほどのミクロンサイズの液滴の集団から、容易に全長3cmほどの構造を形成できる。

スポンジから抽出された液滴が自己組織化により多細胞体構造をつくる様子の模式図

実際に形成された多細胞体構造(上)とその拡大図(下)

開発した手法は、複数種類の液滴に対応するため、異なる溶質を含む水で異なるスポンジを使い、異なる色素を使い、異なるタイプの液滴を形成すると、互いに液滴が結合し、不均質な構造を形成する。さまざまなパーツを追加し、組み合わせると、複雑な形状を作ることができる。また、機能を向上させることができる。

デモンストレーションでは、多区画構造の疎水性膜に疎水化した磁性ナノ粒子を加えることで、外部の磁場で構造全体を誘導できた。別の場所に磁性を示す部位と示さない部位をもつ構造を作ることもでき、機能の分離と同時に指向性を持たせることにも対応した。

開発した製造技術は、人工的にデザインした分子を使い、手に取れるサイズの多細胞型ソフトロボットを構築する基礎となる。研究グループでは、この材料の医療用パッチ(外用薬を制御放出するためのカスタマイズ可能な絆創膏)としての応用を検討している。また、この合成「細胞」的なアプローチに基づく分子ロボットのアイデアを発展させていく。

関連情報

多細胞型分子ロボット製造のための新手法を開発 ― 新しいソフトロボット構築への展開で医療や産業への貢献に期待 ―

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