- 2024-7-10
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スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)の研究チームが、コンピューター計算手法を用いて、世界で最も細い金属ナノワイヤーCuC2を見いだした。微細構造化が進む電子デバイスにおいて、微細な端子間伝送路や積層間ビアなどに応用できると期待している。研究成果が2024年6月7日に『ACS Nano』誌に公開されている。
グラフェンを始めとする2D材料は、優れた物理的および化学的特性の観点から大きな注目を集め、太陽電池やリチウムイオン電池、電界効果トランジスタなどへの応用が期待されている。最近では、ワイヤー状またはチューブ状に直線的に並ぶ原子から構成される1D材料が注目されるようになり、特異な電気的および磁気的、光学的な性質により、超微細構造電子デバイスやバイオセンサ、触媒など広範囲な応用が期待されている。既に、カーボンナノチューブが提案されて久しいが、製造および制御が難しいことが知られるようになり、取り扱いが容易なナノワイヤーおよびナノチューブの探索が進められている。
研究チームは2D材料において用いられている手法、即ちファンデルワールス力による弱い結合を持った3D結晶から1D材料を剥離することに着眼した。さまざまな文献データベースからファンデルワールス力結合している78万以上の3D結晶群を抽出し、空間的な原子間力の計算アルゴリズムを用いて、1D構造を安定的にとり得るものを探すとともに、1D材料を3D母結晶から分離するのに必要なエネルギーを計算した。研究チームは「1D金属は原理的に、剥離が容易な材料ほど構造的に不安定になるので、金属的な性質を維持したまま耐久性を確保するのは極めて難しい」と説明する。
そして実験的な合成例はないが、計算により可能性が見いだされた化合物として14個の最適候補を選択し、更に電子的挙動について詳細に計算することで、最終的に金属と半金属の4種類の材料を最も有望な1D材料として絞り込んだ。その中で金属ワイヤーCuC2は、2つのC原子と1つのCu原子から構成される直線状チェーンであり、絶対零度でも安定であり世界で最も細い金属ナノワイヤーである。実験的に知られているNaCuC2、KCuC2、RbCuC2の3種類の母結晶から剥離できることを見いだした。研究チームは「剥離に必要なエネルギーは小さく、金属的な性質を維持したまま曲げることができ、超微細構造電子デバイスに応用可能だ」と期待している。
研究チームは、それ以外にも興味深い材料を発見しており、その中には50年前に予想されたが観察例のない、励起子絶縁体の半金属Sb2Te2の他、Ag2Se2とTeSe3を見いだしている。今後、実際に材料を合成する実験研究者と協力するとともに、実際の応用を想定して電荷輸送特性やその温度変化など、金属ナノワイヤーの詳細な特性について計算する予定だ。
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