軍用機をその場で修理できる――米海軍、移動式自動低温溶射技術を開発

アメリカ海軍にて航空機関連の修理と整備に関わる技術開発チームが、粉末材料を超音速領域にまで加速して固相状態のまま吹き付けて成膜するコールドスプレー(低温溶射)技術を、移動式かつ自動化することに成功した。

当該設備は、ノースカロライナ州海兵隊航空基地のヘリコプターの修理・整備に配備されており、ヘリコプターを駐機状態のまま、摩耗や擦傷したギアボックス、スキッドチューブなどの部品表面に、耐久性のある合金被覆を形成して補修することができる。航空機を修理工場まで移動したり解体して部材や部品を輸送したりする必要がなくなり、時間とコストを大幅に節約できる。また、メンテナンスによる停止時間を削減することで、軍事的即応性を高めることに貢献するとしている。

粉末粒子を溶融またはそれに近い状態に加熱して、物体表面に吹き付け成膜する「表面処理法」である溶射技術は、既に100年の歴史を持っており、これまでフレーム溶射やプラズマ溶射などが実用化されている。特に1980年代になり、溶射材料の融点や軟化温度より低い300~900℃程度に加熱したHeなどのガスを先細末広ノズルにより超音速流にして、その流れの中に溶射粒子を投入して加速させ、固相状態のまま基材に高速で衝突させて成膜する「コールドスプレー技術」が開発された。

固相の粒子を低速で衝突させても基材に皮膜は形成されないが、衝突速度が500m/s以上になると粒子の運動エネルギーにより粒子が塑性変形して皮膜を形成し始め、密着率が高い緻密な皮膜が形成される。部品表面の摩耗や擦傷を補修することができ、場合によっては防護性の高い皮膜を形成することも可能だ。低温で成膜できることから、酸化や熱影響による基質の材質劣化を生じにくい特長があり、「既存の接着剤や溶接、機械的締結を超える補修ソリューションだ」と、技術開発チームは考えている。

コールドスプレー技術は、現在、米海軍の航空分野において、シャフトやギアボックス、スキッドチューブなどの部品修理に用いられているが、修理整備ラインの筐体内に常設配置されていることから、航空機そのもの、または取り外した部品を修理工場まで輸送する必要があるとともに、対応できるサイズにも限界があった。そこで技術開発チームは、駐機したまま航空機上でメンテナンスが行える、移動式自動コールドスプレー・システムの開発に取り組んだ。

2019年に国防省の支援のもと移動式自動システムを製作し、始めて航空機上での補修トライアルを実施した。その結果、輸送機「V-22オスプレイ」の窓枠の機上修理および、H-1のスキッドチューブの現場修理を実証することに成功した。更に、プログラムによる自動操作、または作業員による手動操作の両方とも可能であり、従来にない柔軟性を持つことも確認した。「修理のための航空機移動や部品輸送などが不要になり、時間とコストの削減が可能になり、メンテナンス所要時間の低減によって任務即応性を向上できる。更に、航空機部品の耐用寿命を延長でき、財政的にも部品準備という観点においても大きなメリットがあるとともに、修理可能対象範囲を拡大する」と、技術開発チームは期待する。

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