- 2023-6-1
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東京大学大学院工学系研究科の研究グループは2023年5月31日、単結晶酸化物を用いて、スピントランジスタの基本となる強磁性体、半導体、強磁性体構造からなる横型2端子素子を作製することで、従来の10倍以上の大きな磁気抵抗比を得たことを発表した。ゲート電圧による電流変調にも成功した。
近年、電子のもつ磁石としての性質「スピン自由度」を利用した「スピントロニクスデバイス」の研究開発が進められている。「スピントランジスタ」はそのようなデバイスの1つで、従来のトランジスタに電子のスピン自由度を取り込むことで、不揮発性を持たせている。スピントランジスタにより、デバイスレベルでトランジスタの増幅機能と不揮発のメモリ機能を一体化できる。
2つの強磁性体の磁化の向き(N極とS極の向き)が平行か反平行かにより、0と1の情報を記憶する。電源を切った状態でもデータを維持でき、大幅に集積回路の消費電力を低減できるものと期待されている。
しかし、今まで主として研究が行われてきた横型スピントランジスタ構造では、磁気抵抗比と呼ばれる平行磁化状態と反平行磁化状態間の抵抗の変化率が最大でも1~10%にとどまっている。これは、実用上必要とされている100%以上には到達しておらず、この値まで増大させることが課題となっていた。
研究グループは今回、酸化物SrTiO3基板の上に、分子線エピタキシーという高純度の単結晶薄膜を形成できる手法を用いて、高品質の単結晶La0.67Sr0.33MnO3薄膜を作製した。その後、アルゴンイオンを幅40nm程度の領域に照射し、酸素欠損を発生させ、その部分を局所的に半導体に相転移させて半導体チャネル領域を形成。すべて単結晶酸化物からなる強磁性体/半導体/強磁性体の横型2端子素子を作製した。
この素子は、3Kの低温にて最大で140%の高い磁気抵抗比を得られた。これは、従来の研究で得られていた磁気抵抗比を10倍以上上回っている。また、同様のプロセスを用いて、3端子のスピントランジスタ素子を作製し、電流をゲート電圧で変調することにも成功した。
研究の成果は、酸化物を用いて、ナノ加工技術によりナノスケールでの局所的な相転移を引き起こすことで、半導体では難しい新たな機能性をもつデバイスを実現できる可能性を示している。将来的には、さまざまな酸化物にこのようなナノスケールの相転移技術を適用し、酸化物の多様な物性を利用した新しいデバイスを創出できるものと期待されている。
ゲート変調の増大と動作温度の向上などが、実用に向けての今後の課題となる。
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