人間の目を模倣した画像キャプチャーデバイス――バッテリーフリーのカメラや人工網膜につながる可能性も

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人間の視覚システムを模倣した新しい画像キャプチャーデバイスが開発された。人間の目の網膜の錐体細胞を模した狭帯域ペロブスカイト光検出器と、人間の神経ネットワークを模したニューロモーフィックアルゴリズムを使用したデバイスで、高解像度の画像を生成する。この研究は米ペンシルベニア州立大学によるもので、2023年4月14日付で『Science Advances』に掲載された。

人間の網膜には赤、緑、青それぞれの色の光に反応する錐体細胞と、見ているものの情報が脳に伝達される前に処理をする神経ネットワークがある。この自然な働きによって、人間は色彩豊かな世界を見ることができる。

一方、現代のカメラに搭載されているシリコン光検出器は光エネルギーを電気信号に変換するが、光を吸収してもその色の識別はできない。外部フィルターで赤、緑、青を分離し、光センサーの各部分に1色のみ届くようにしているので、入射光の3分の2を浪費してしまう。そのため、解像度が下がり、コストと製造の複雑さが増すという問題があった。

今回の研究では、人間の視覚システムを人工的な装置で実現することを目指した。まず、研究者らは人間の網膜の錐体細胞を模した狭帯域ペロブスカイト光検出器を作った。ペロブスカイトは半導体であり、光が当たると電子と正孔のペアが生成される。この電子と正孔を反対方向に送ると電流が発生する。

今回の研究では、電子と正孔の移動速度に大きな偏りがある薄膜ペロブスカイトを作成。その薄い膜の積み重ね方をコントロールすることで、特性を利用して材料を狭帯域光検出器として使えることを発見した。そして、1つの波長の光だけに感光するペロブスカイト材料を設計し、赤、緑、青のいずれかの色にのみ感光する、3つの異なるペロブスカイト材料を作り出した。

この材料で新しいセンサーアレイを作り、プロジェクターを使ってデバイスを通して画像を照射した。そして、赤、緑、青の各層で収集した情報を、人間の網膜の神経ネットワークを模倣したニューロモーフィックアルゴリズムに送り、信号を処理して画像を再構築した。その結果、3色の層からの信号を直接統合するより、オリジナル画像により近く鮮明なものになった。

この発見は、人間の視覚における網膜神経ネットワークの重要性について、新たな洞察を与える可能性がある。また、今回の研究チームの設計をカメラに応用すると、従来のようなフィルターによる情報の損失を回避し、より高い空間解像度が得られるかもしれない。さらに、ペロブスカイト材料を使用しているこの新型デバイスは、光を吸収する際に電力を発生することからバッテリーが不要なカメラ技術の扉を開く可能性もある。そして、人工網膜関連のバイオテクノロジーのさらなる発展をもたらすことも考えられる。死んだ細胞や損傷した細胞を置き換えて、将来的に視力を回復させることもできるかもしれないという。

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