劣化なくリサイクル可能で、高分子微粒子から亀裂が進みにくいゴム材料を開発 信州大学

信州大学は2023年6月17日、同大学繊維学部化学・材料学科/先鋭材料研究所の研究グループが、劣化なくリサイクル可能で、高分子微粒子から亀裂が進みにくいゴム材料を開発したと発表した。

今回の研究では、大きさ数十nmの高分子微粒子として、水中に分散するコロイド粒子を用いた。コロイド粒子は、化粧品や塗料、紙加工といった用途に加えて、スマートフォンなどの電子機器において、部品同士の間を埋めるスペーサーとしても用いられている。

同粒子を含んだ微粒子分散液(合成ラテックス)を乾燥させると、微粒子同士が互いに融着し、微粒子フィルムが形成される。本研究では、水と微粒子のみを使っていて、有機溶剤を用いないため、微粒子フィルム内に存在する微粒子同士の界面(微粒子間の接着面)が破断点となりやすく、脆弱性が課題となっていた。

一方で、同フィルムを強化するにあたっては、環境や人体に有害な添加物を用いたり、フィラーなどを材料に組み込む特別な処理を施したりといったことが現状必要となっている。このため、有害な添加物などを用いずに脆弱性をカバーできる手法が求められていた。

そこで、同研究グループは今回、接着剤やゴム材料の原料として用いられるアクリレート系モノマーのエチルアクリレートからなる微粒子を活用して、伸縮性が高く亀裂も進みにくい微粒子フィルムを作製した。高い伸縮性と強度という相反する特性を兼ね備えている。

微粒子フィルムに切れ目を入れたときの耐久性を調べる引裂試験を実施したところ、切れ目からの亀裂が広がりにくい性質を有することが判明した。

フィルムに一箇所切れ込みを入れて引っ張ると、通常のフィルムは切れ込みから亀裂が広がり続け、最終的には断裂する。一方で、今回開発したフィルムでは亀裂を食い止めるかのように伸⾧した。冒頭の写真は、その様子を示したものとなっている。

また、今回の研究では、微粒子に0.02mol.%(5000分子に1つの割合)のロタキサン分子を導入した微粒子を合成した。

ロタキサン分子を導入した高分子微粒子を用いた、微粒子フィルムの形成プロセス

小角X線散乱法などにより微粒子フィルムの内部構造を調べたところ、ロタキサン分子を導入した微粒子は、微粒子間の界面で高分子鎖同士が互いに深く絡み合っていた。その度合いが、微粒子フィルムを引き裂くのに要するエネルギーと相関関係にあることが判明している。

加えて、微粒子フィルムを引き裂く速度を変えて実験した。傷に対する亀裂が様々な方向に進む現象が、遅く引っ張った際に生じた一方で、速度を早めた際には見られなくなることが判明している。

今回使用した微粒子フィルムは、エタノール水溶液などの低環境負荷の有機溶媒に浸すことで、個々の微粒子に分解することが可能だ。揮発性の高いエタノールを蒸発させることで、もとの高分子微粒子と水のみからなる微粒子分散液の状態に戻り、再度フィルム形成できるリサイクル可能な材料である。

今回の技術を活用することで、高分子の⾧所を有しつつ、安全性、耐久性も高い製品の実現が期待される。体内で用いるバイオマテリアルなどでは、添加剤や有機溶剤などを用いない高分子材料が求められている。

また、ロタキサン架橋剤はさまざまなモノマーと共重合できる汎用性を有しており、さらなる機能の拡張が見込まれる。

さらに、より硬い性質の高分子やより柔らかいゲルからなる微粒子など、幅広い高分子材料への応用も想定される。

関連情報

鈴木 大介 准教授ら、劣化なくリサイクル可能な高分子微粒子から亀裂が進みにくいゴム材料を開発-2023.06.19|信州大学 繊維学部

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