水槽内のどの壁にも触れていない乱流の「ボール」を作り出す――乱流に関する疑問解明に役立つ可能性

Image courtesy Takumi Matsuzawa

水槽内に孤立した乱流の「ボール」を発生させる方法が開発された。これは乱流生成における画期的な発見だという。この研究は米シカゴ大学によるもので、その詳細は2023年5月11日付で『Nature Physics』に掲載された。

乱流とは不均一に混合された物質の中のカオス流であり、物理学における大きな未解決問題の1つとして、しばしば引き合いに出されるものだ。乱流は身の回りにあふれている。カフェラテのコーヒーとミルクの渦にも、飛行機の翼の表面や自動車の側面沿いにも、あるいは心臓の弁が閉じた後にかき回されている血液にも存在している。

過去数十年の間に、乱流の「理想的な」状態の挙動を説明することについては進歩があった。理想的な状態の乱流とは、境界などの交絡変数や、強さや時間の変化がないものだ。しかし、現実世界の乱流に関しては、まだ解明されていないことがたくさんある。

大きな問題の1つは、実験において交絡変数が存在することだ。物理学者は通常、現象を研究するために、研究対象の現象を環境から切り離すことから始める。しかし、乱流を単独で分離する方法はこれまでなかった。例えば、パイプを通して水を高速で噴射したり、水槽の中でパドルをかき回したりして乱流を作ることはできるが、乱流は常に容器の壁やかき混ぜている物に触れているため、結果に影響を与えてしまう。

研究チームは、タバコの煙を口から丸く吐き出したときにできるドーナツ状の渦のような「ボルテックス・リング(渦輪)」を水槽で作る実験をしていたが、ある特定の構成を使った時に奇妙なことが起きた。

渦輪を組み合わせて乱流を作ろうとすると、通常、そのエネルギーは散逸する前にすぐに渦輪にはね返ってくる。しかし、水槽内部の8カ所の隅それぞれに渦輪発生装置を設置し、水槽の中心で重なるように8つの隅からリングを繰り返し発射すると、乱流のボールが水槽の壁から離れたところに単独で形成されたのだ。このこと自体が画期的な発見だった。それまで、乱流をある場所に閉じ込めることができるとは誰も思わなかったからだ。

独立した乱流のボールがあれば、科学者はレーザーや複数の高速カメラを使って、乱流のボールのエネルギーやヘリシティ、流体の運動量に相当する力積や、角運動量に相当する角力積などのパラメーターを、より正確に追跡できる。

さらに、パラメーターを変えることもでき、送り込むリングを時計回り、あるいは反時計回りに回転する渦に変えることも可能だ。入射するエネルギー量を変えたり、リングの追加をやめて乱流が消滅するのを観察したり、リングのヘリシティを変えて時間とともにどのように乱流が発達するかを見ることもできる。

このような乱流のボールは、乱流がどのように拡大し消滅するのかなど、さまざまな疑問に答えるための唯一の環境であると、研究チームの1人であるWilliam Irvine教授は考えている。研究チームは、この画期的な発見が乱流をより深く理解するための新たな研究の道を切り拓くことを期待している。

関連情報

Tempest in a teacup: UChicago physicists make breakthrough in creating turbulence | University of Chicago News
Creation of an isolated turbulent blob fed by vortex rings | Nature Physics

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