フレキシブルな多機能デバイスも可能に――紙の表面に液体金属を直接印刷する技術

北京の清華大学の研究チームが、紙やプラスチックなどの表面に、液体金属を直接コーティングする新しい手法を考案した。濡れ性のない表面に液体金属を印刷することによって、さまざまな形状に機械的、電気的、熱的性質を備えた「スマートデバイス」の作成を可能にするもので、ウェアラブル機器やフレキシブルデバイス、ソフトロボットなどに応用できると期待している。研究成果が、2023年6月9日に『Cell Reports Physical Science』誌に公開されている。

日本の伝統的な文化である折り紙は、2014年にNASAによって宇宙船用の大型ソーラーパネルの畳み込み手法に「Origami」技術として活用された。そして構造表面や内部にさまざまな機能を備えたデバイスをコンパクトに畳み込み、必要な時に外部に展開できるデバイスの開発へと発展している。

しかし、紙やプラスチックに機械的、電気的、熱的性質などを付与するために、液体金属をコーティングしようとする場合、液体金属の極めて高い表面張力のために、「濡れ性のない表面に液体金属を容易にコーティングすることは不可能」と研究チームは語る。表面張力または濡れ性は、紙も含めて多くの材料のコーティングの障害になるが、これを克服するための研究は主として、「転写」と呼ばれる技術に注力されてきた。転写技術では、液体金属を表面にコーティングするために第三の材料を介在させる必要があるため、プロセスが複雑になり、最終製品の特性を劣化させるという懸念があった。

研究チームは、金属の特性を損なう転写技術ではなく、液体金属を基板に直接、簡便に印刷できる手法の開発にチャレンジした。2種類の液体金属(EGaInとBiInSn)を用いシリコーン高分子のスタンプに装着し、スタンプを紙の表面に擦る方法によってコーティングすることを試みた。その際に擦る圧力を変化させ、「試行錯誤の末、安定した再現性のあるコーティングを実現する適正パラメータを把握した」と説明する。液体金属が装着されたスタンプを、紙に対して小さな圧力で擦ると金属液滴が表面に効果的に接着する一方、大きな圧力を適用すると液滴が正しく接着しないことがわかった。

更に、金属コーティングされた紙をorigamiに畳み込む場合、表面コーティングを損傷することなく畳むことができ、また機械的性質などコーティング層の特性が維持されることを実証した。更に、origamiを様々な形状に展開することにより、形状記憶効果を含めたスイッチ機能を実現できるなど、多機能デバイスへ発展できる可能性を確認した。

研究チームは、開発技術はウェアラブル機器やフレキシブルデバイス、ソフトロボットなどに多機能デバイスとして応用できると期待している。現在、液体金属コーティングを保護するパッケージについて検討するとともに、パッケージを不要とする方法についても探索している。将来的に金属やセラミックなど多様な材料表面に応用することも考えている。

関連情報

Direct fabrication of liquid-metal multifunctional paper based on force-responsive adhesion – ScienceDirect

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