二酸化炭素にのみゲートを開いて吸着する、フレキシブル多孔性材料を発表 京都大学アイセムス

京都大学アイセムスの北川進特別教授らの研究グループは2023年8月2日、中国同済大学と共同で、さまざまなガス分子の中から、二酸化炭素(CO2)に対してのみゲートを開いて吸着するフレキシブル多孔性材料を発表した。これまで未開拓だったCO2に対する選択的な吸着現象のメカニズムと設計指針が解明されたことで、同様の性質を示す様々な素材の開発に繋がる。

工場や発電所、化学プラントなどから排出される廃棄ガスやオフガスは、CO2以外にもさまざまな成分を含んでいる。温室効果ガスであるCO2を効率的に分離して回収する技術の開発は、産業面と環境問題の両面で重要な課題となっている。

その中で、多孔性材料を利用した吸着分離法は、エネルギー効率が高く、省エネルギーな分離方法として注目を浴びている。しかし、これまでの多孔性材料を用いたガス分離の研究では、主に二成分混合ガスに焦点が当てられており、多数の類似成分ガスから単一成分を分離する多孔性材料の開発に関する研究はほとんど行われておらず、そのような材料の設計指針についても知られていなかった。

今回の研究では、構造柔軟性を持つフレキシブル多孔性配位高分子(Porous Coordination Polymer: PCPまたはMetal-Organic Framework: MOF)に着目した。有機分子と金属イオンをパーツとした結晶性の多孔性材料で、規則的に配置された無数の小さな穴を持つPCP/MOFは、一般的な多孔性材料とは異なり、細孔の構造をデザインし、機能性を持たせることができる。

ガス分子の吸着に応答して、構造を柔軟に変化させ吸着する性質を持つPCP/MOFは、フレキシブルPCP/MOFと呼ばれ、ガスの吸着前には細孔が閉じており、一定の圧力に達すると細孔を拡大してガスを吸着するという特性を有する。

フレキシブルPCP/MOFのゲートオープン挙動として知られているこの特性は、圧力スイング法による効率的なガスの分離と回収に活用されることが期待されているが、狙ったガス分子以外のガスも一緒に吸着しやすくなるという、選択性の制御に課題があった。

研究では、PCP/MOF内での分子認識の機構である分子ふるい効果と細孔構造の立体化学的な設計と、選択的なゲートオープン挙動を相乗的に利用する構造開発に取り組み、コバルトイオンとカルボン酸イオンがコバルトイオンで連結して構成される、二次元シートが交互にズレた相互篏合型の二次元シート積層構造を持つ新しいフレキシブルPCP/MOFを合成した。

ガス吸着前の相互篏合型構造の細孔は、ポケット同士が分断され、デコボコで波打ったような細孔構造をしているが、このような相互篏合型構造では、シート間の相互作用を上回る吸着エネルギーを持つガスのみが吸着挙動を示す。ガス分子の中でチャネルを通過するための障壁エネルギーが大きい場合は、そのガスはチャネルを通過できず、吸着が妨げられる。開発したフレキシブルPCP/MOFは、これらのメカニズムが複合的に作用し、特異的な吸着特性を実現していることがわかった。

開発したPCP/MOFは、シート間のすきまがCO2の吸着で広がり、ゲートが開いてCO2を吸着する特性を示す。この際に分断されていたポケット状のすきま同士が相互につながり、一次元状のチャネルを形成してCO2が取り込まれる。窒素(N2)、メタン(CH4)、一酸化炭素(CO)、酸素(O2)、水素(H2)、アルゴン(Ar)、アセチレン(C2H2)、エチレン(C2H4)、エタン(C2H6)などの9種類の類似したガス分子はほとんど吸着しなかった。CO2を含む混合ガスからも、CO2のみを排他的に識別、分離できた。

このような排他的なCO2の分離特性は、これまでに報告されておらず、初めて実証したことになる。今回の成果により、効率良く多成分を含む混合ガスから狙ったガスを分離する技術の実現に近づいた。

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二酸化炭素に対してのみゲートを開いて吸着する フレキシブル多孔性材料を開発 | ニュース | 京都大学アイセムス

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