- 2023-8-18
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日本原子力研究開発機構は2023年8月15日、原子力機構J-PARCセンターと熊本大学の研究グループが、高強度マグネシウム合金(Mg97Zn1Y2合金。以下、LPSO-Mg合金)が高温押出加工によって強度が大きく増加するメカニズムを解明したと発表した。高温押出などの加工によるMg相およびLPSO相の組織制御は、マグネシウム合金の今後の開発に大きな指針を与える。
実用金属の中で最も軽い金属であるマグネシウムは、多方面で活用されているが、一般的にマグネシウム合金は鋳造時に多くの欠陥を抱えており、変形させると早期に破断してしまう傾向がある。そのため、欠陥を減らして延性を向上させる取り組みを実施しているが、強度が大きく増加することはなかった。
そこで、熊本大学は、マグネシウムの母相(Mg相)の中にLPSO相と呼ばれる相を含んだLPSO-Mg合金を開発した。軽量でありながらマルテンサイト鋼と同程度の強度を持つLPSO-Mg合金は、高温で圧力をかける高温押出加工によって、大幅に強度が増大する。
強度の向上は、LPSO相へ、高温押出加工でキンク帯という構造が導入されたことが理由の一つと推測されているが、高温押出加工によって、LPSO-Mg合金のそれぞれの構成相がどうふるまうのかは不明だった。そこで、高温押出加工で強度が増大するメカニズムを解明した。
研究では、押出比を変えて高温押出加工したLPSO-Mg合金を用意。それぞれ引張変形させながら「その場中性子回折実験」を実施し、構成相が負担する応力を観測した。なお、測定には、J-PARCの物質・生命科学実験施設(MLF)に設置している高性能工学材料回折装置TAKUMIを用いた。
測定の結果、定量的かつ詳細に、高強度LPSO-Mg合金の高温押出加工による大きな強度増大のメカニズムを解析できた。合金中で、Mg相は柔らかい相として、LPSO相は硬い相としてふるまい、高温押出加工によってMg相も強度が高められたことがわかった。LPSO相の強度増大は、高温押出で導入されたキンク帯と集合組織の発達によるものだった。
押出比が低い場合は、Mg相の中に複数の組織形態が同時に存在する「マルチモーダル」と呼ばれる状態に変わり、Mg相の強度が効率的に高められた。これにより、LPSO相の強度増大をMg相の強度増大が上回って、LPSO-Mg合金全体の強度を大きく増大させた。
これらの結果から、Mg相の組織形態を制御することで、LPSO相による強度増加に加え、さらに強度を向上できることがわかった。具体的には、適切に押出加工条件や熱処理などを調整すれば、変形組織と再結晶組織の割合や結晶粒のサイズを調節し、材料の強度を最大限に引き出すことができる。これは、マグネシウム合金の設計や高温加工プロセスの最適化で重要なガイドラインとなる。
今回の成果により、これまでのやり方に加え、特定の構成相内の組織形態の個別応力にも着目すべきことがわかった。マグネシウム合金の開発では、Mg相の組織形態を制御することで強度と延性を同時に向上させることができる。これによって、LPSO相のような第二相に依存しない単相合金の今後の開発に大きな指針を与えるものと考えられる。
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日本が開発した高強度マグネシウム合金はなぜ強いのか ―その場中性子回折実験で変形中の構成相それぞれのふるまいを解明―|日本原子力研究開発機構:プレス発表