67年前に予言された、質量ゼロの電気的に中性なプラズモン「パインズの悪魔」を観測

米イリノイ大学を中心とした研究チームが、ストロンチウム・ルテニウム酸化物(Sr2RuO4)という金属で、67年前に予言された「パインズの悪魔」の観測に成功した。同研究成果は2023年8月9日、「Nature」に掲載された。

物性物理学において、固体中の電子は十分なエネルギーがあれば、電気的相互作用によって決まる電荷と質量を持つ複合粒子(プラズモン)を形成することが知られる。しかし、通常、質量が非常に大きいため、室温で得られるエネルギーではプラズモンを形成できない。

それに対し、アメリカの理論物理学者David Pines氏は1956年、固体中の電子が結合して質量のない、電気的に中性なプラズモンの存在を予言し、特異な電子の運動(Distinct Electron Motion)を担う量子「悪魔(DEM-on)」と名付けた。

「悪魔」は、位相のずれたパターンで結合したプラズモンであり、質量がないため、どのようなエネルギーでも形成でき、あらゆる温度で存在する可能性がある。しかし、電気的に中性な「悪魔」は、光と相互作用しないため、固体物性評価でよく用いられる光を使った実験で捉えられず、異なる種類の実験が必要であった。

元々イリノイ大学の研究チームは、「悪魔」とは関係ない理由でSr2RuO4を研究していた。Sr2RuO4は、高温超伝導体に似ているが、そうではないという特徴を持つ。その理由を見つけようとして、Sr2RuO4の電子的性質を調査した。

京都大学の研究チームが、Sr2RuO4の高品質サンプルを合成し、イリノイ大学の研究チームが、運動量分解電子エネルギー損失分光(M-EELS)を用いて、電子的性質を調査した。M-EELSは、金属に電子を打ち込んで、プラズモンを含む金属の特徴を観察できる実験手法だ。

実験データを調べていく中で、研究チームは質量のない電子を発見した。そして、Sr2RuO4の電子構造を計算した結果、Pines氏が記述したのと同様に、ほぼ等しい大きさで位相がずれて振動する2つの電子バンドからなる粒子であることが分かった。

研究チームは、今回の「悪魔」の発見は、あまり知られていない材料に一般的でない測定法を試みた結果だとし、ただ材料を測定することの重要性を指摘した。

関連情報

Sr2RuO4での「パインズの悪魔」の観測 67年前に予言された金属の奇妙な振る舞いの発見 | 京都大学
Pines’ demon observed as a 3D acoustic plasmon in Sr2RuO4 | Nature

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