東北大学は2023年11月14日、同大学材料科学高等研究所の研究チームが、リチウム空気電池用カーボン正極の新材料を提案したと発表した。次世代蓄電池の実用化に寄与することが期待される。
リチウム空気電池は、理論上のエネルギー密度が既存のリチウムイオン電池の数倍以上と言われており、特に軽量化が要求されるドローンや家庭用蓄電、IoTデバイスなどでの応用が期待されている。
一方で、リチウム空気電池は内部で正極、負極および電解液が全て著しく劣化するため、十数回程度しか可逆的に充放電できないことが課題となっていた。
同研究チームは今回グラフェンに着目し、その化学的特徴に基づいた理想的な正極構造を提案した。具体的には、高容量を得るべく豊富な細孔容積を確保し、電池を軽量化するためにグラフェンの積層を排除したほか、サイクル寿命を得るため劣化サイト(エッジ)を排除している。
工程としては、まず鋳型材となるアルミナナノ粒子を圧縮成形し、ペレットを作成。化学気相蒸着(CVD)で約1層のグラフェンを被覆した。次いで、フッ化水素酸などによる化学エッチングでアルミナナノ粒子を除去し、ペレット状のポーラスカーボンを生成した。
この試料を1800℃で加熱することで、電池の劣化の要因となるグラフェンの端がジッピング反応(グラフェンの端同士が融合してより大きなグラフェンが生成する反応)で除去され、劣化耐久性の高いグラフェンメソスポンジ(GMS)自立膜を得ている。
今回調製したGMS自立膜は、構造がさまざまに異なっている。これらの重量当たりの容量を、面積当たりの容量に対してプロットしたのが下図の(a)だ。グラフの右上に位置するものほど高い性能を示している。
また、(a)の中で特に性能が高い2つの試料(試料番号11、12)の性能を、過去の文献に報告されたカーボン正極と比較した図が(b)となっている。過去に報告されているカーボン材料と比較して、GMSは重量当たりの容量および面積当たりの容量がともに高いことが見て取れる。
なお、従来のカーボン材料と比較して、GMSはサイクル寿命にも優れることが判明している。
3次元的な細孔構造を積層の無いグラフェンで形成して細孔容積を最大化しながら、劣化の原因となるエッジを排除できるのは、実在するカーボン材料の中では現状でGMSのみだという。
同研究チームが今回見出したのは、現状でカーボン正極の理想的な構造と言える。しかし、負極と電解液の劣化については依然課題となっている。今回のリチウム空気電池は、実用で求められる電流密度と容量でサイクルすると、21回程度しか充放電できないという。
今後、負極や電解液の改善が進むことで、リチウム空気電池の寿命がさらに延長することが期待される。
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