放射冷却を利用した持続可能な冷房手法――開口ミラー構造で建物の放射冷却を強化

Credit: J. Hwang, doi 10.1117/1.JPE.14.028001

放射冷却を利用した持続可能な冷房手法の1つとして、開口ミラー構造で放射冷却を強化する手法が提案され、シミュレーションで実証された。この研究はシンガポール国立大学量子技術センター(CQT)によるもので、2024年4月2日付で『Journal of Photonics for Energy』に掲載された。

近年世界中で気温が上昇し、冷房の需要が高まっている。しかし、従来の空調システムは世界のエネルギー消費における顕著な要因の1つとなっており、地球温暖化の原因でもある。例えば、部屋の内部といったある容積の空間を冷やすために、空調システムは冷やされる部屋の外部に排熱する。つまり、冷やされる空間の近くに熱を捨てているのだ。

研究者たちは持続可能な代替手法を求め、受動的で外部からエネルギーを必要としない放射冷却に注目してきた。物が外へ熱を出して冷えることを放射冷却というが、地表面の熱を不可逆的に宇宙空間に向けて放出するので、放射冷却は地球の観点から見れば純粋な冷却効果があることになる。

地球表面からの熱放射は大気圏を通って宇宙空間へ送られる。熱放射に対する大気の透過率は角度によって変化する。大気を通過する熱放射の透過率が最も大きいのは「天頂方向」、すなわち、人間を起点に考えると頭の真上方向で、透過率が最も小さい角度は水平方向だ。

今回の研究は、放射冷却を強化するための実践的な手法を調査したものだ。この手法では、放射冷却の効果を増幅させるために放射冷却面の周囲に熱ミラー(heat mirror)構造を配置する。このミラー構造は、大気中の最も透過性が高い部分に向けて熱放射を効果的に誘導し、地球から最も効率良く放出させる。温度を速く下げることができ、冷却システム設計の選択肢が広がる。

原理はとてもシンプルで、冷却面が上を向いているほど冷却能力は高まる。今回のミラー構造は、冷却面の表面積を拡大しなくても冷却性能を高められるものだ。このミラー構造を追加すると冷却装置の占有面積は増えるが、追加された空間は移動する空気から保護されるため、空気の流れからの熱獲得を防止できる。

研究者らは、パラメトリックシミュレーションにより、都市部でこのミラー構造が特に効果的だということを実証した。都市部では高さが異なる建物が密集しており、すべての建物の屋根や屋上から空が完全に見えるわけではない。そこで、このミラー構造を設置し、上空の特定エリアに冷却面からの「視界」を集中させることで、放射冷却を強化できる。

このようなミラー構造使用の潜在的なメリットは、特に熱帯地域にとっては大きいと思われ、冷却能力が40%以上向上する可能性があるという。論文著者で、CQT所属の上級研究員であるJaesuk Hwang氏によれば、放射冷却が可能となるのは、角度によっては大気が十分に薄いためだ。「乾燥地域は熱放射が大気を透過する角度の範囲が熱帯地域よりも広く、全体的な放射冷却は乾燥地帯のほうが強力だが、熱帯地域では熱ミラー構造で熱放射の方向を上方へと変えることが最も効果的だ」とHwang氏は説明している。

このシンプルな手法で熱エネルギーの移動方向を決定することで、停滞する熱が課題である熱帯地域において、温度を下げ、建物の放射冷却性能を向上させる実用的な解決策を提供する可能性があるという。

関連情報

Enhancing radiative cooling with aperture mirror structures
Climate-dependent enhancement of radiative cooling with mirror structures

関連記事

アーカイブ

fabcross
meitec
next
メルマガ登録
ページ上部へ戻る