孔がない酸化グラフェンを合成して薄膜化し、水素イオンバリア膜を作製 熊本大学

熊本大学は2024年9月4日、構造内に「孔」がない酸化グラフェンを合成して薄膜化することで、水素イオンバリア膜を作製したと発表した。リチウム箔に孔を持たない酸化グラフェンをコーティングし、リチウム箔を水滴から守ることに成功している。

原子1つ分の厚さで、あらゆる物質を遮断できるグラフェンは、究極のバリア膜材料として期待されているが、複雑な形状を持つ物体に成膜することは技術的、コスト的に非常に困難だった。グラフェンの酸化物である酸化グラフェン(GO)に注目が集まったが、GOはイオンを高速に伝導する性質があり、イオンバリア膜への応用展開、特にイオン半径が小さい水素イオンバリア膜の開発は困難とされてきた。

研究では孔を持たないGO(Pf-GO)を合成し、薄膜化することで、GOから水素イオンバリア膜の開発を試みた。その過程で、水素イオンの伝導経路についても調査している。最初に電子顕微鏡により、合成したGO、Pf-GOに孔が存在するかどうかを観察した。

一般的なGOは、Hummers法によるグラファイトの酸化、超音波による剥離により合成される。Pf-GOは、Brodie法によるグラファイトの酸化、アンモニアを使用した剥離により合成した。一般的なGOはシート内に多数の孔が存在しているが、Pf-GOは孔を観察できなかった。これは、一般的なGOは構造内に多くの孔が存在しているが、Pf-GOは孔が存在していないことを示す。

それぞれのGO、Pf-GOから薄膜を作製し、水素イオンの透過を評価したところ、GO膜は測定セル側のpHが瞬時に減少しており、水素イオンが高速で透過していることがわかった。一方、Pf-GO膜では、測定セル側のpH減少が見られなかった。

これは、Pf-GOが水素イオンバリア膜として機能することを示しており、骨格中の孔が水素イオンの移動経路になっていることを示す。より詳細な水素イオン伝導特性の調査では、GO膜とPf-GO膜とでは、水素イオン透過速度に最大10万倍の差があった。

次に、リチウム箔の保護を試みたところ、実際にGOを使用した例では瞬時に水とリチウム箔が反応した。Pf-GOを使用した場合は、表面の水滴が乾燥するまでリチウム箔が反応しなかった。この結果からも、Pf-GO膜が高いバリア特性を持っていることがわかる。

(a)GOおよびPf-GO膜の水素イオン透過特性評価に用いた装置の模式図。
(b)水素イオン透過特性試験における、pH測定セル側のpH変化。
リチウム箔表面に(c)GOおよび(d)Pf-GO薄膜を形成し、水滴からの保護性能を調査する実験の概念図および水滴滴下後の実際の写真。

水素イオンバリア特性は、GO膜がこれまで難しいとされてきた防錆や水素インフラにも有効であることを示している。今後は、水素イオンバリア性能を活かした応用展開を進めると同時に、GOの構造に存在する孔の存在で困難とされてきた、その他の機能開拓にも力を入れていくとしている。

関連情報

「孔」を持たない酸化グラフェンを用いた 水素イオンバリア膜の開発に成功 〜保護膜などへの応用展開が期待〜 | 熊本大学

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