リチウムイオン電池における最大25%もの容量低下の謎を解明――エネルギー密度を高め性能を向上できる可能性

Image source: FELMI - TU Graz

オーストリアのグラーツ工科大学(TU Graz)は2024年8月21日、同大学を中心とした研究チームが、リン酸鉄リチウムカソードのどこでどのように容量損失が発生しているのか、正確に観察することに成功したと発表した。実際の電池は理論容量を大幅に下回ることがあり、この研究は電池材料のさらなる改良に役立つと期待される。

リン酸鉄リチウムは、工具や電気自動車(EV)、定置型エネルギー貯蔵システムのバッテリーにとって最も重要な材料の1つだ。リン酸鉄リチウムは長寿命かつ比較的安価で、自然発火のリスクも低い。短所として挙げられる低いエネルギー密度は改善が進んでいるところだ。しかし、実際のリン酸鉄リチウム電池は、理論上の蓄電容量を最大25%も下回ってしまう。その原因については専門家もいまだにわかっていないという。

このようないわば休眠状態の容量を活用するには、充放電サイクルの間、電池材料のどこでリチウムイオンがどのように吸蔵され、放出されているのかを正確に知ることが極めて重要だ。

研究チームは、充電した電池と放電した電池の電極から材料サンプルを作成し、同大学の原子分解能走査透過電子顕微鏡(ASTEM:Austrian Scanning Transmittion Electron Microscope)で分析した。電子エネルギー損失分光法を電子回折測定や原子レベルイメージングと組み合わせて、電池材料中を移動するリチウムイオンを系統的に追跡した。リン酸鉄カソードの結晶格子内でのリチウムイオンの配置を前例のない分解能でマッピングし、結晶中のリチウムイオン分布を正確に定量化できた。

その結果、テストした電池セルが満充電状態でも、リチウムイオンの一部がアノードに移動せずカソードの結晶格子に留まっていることが判明した。この動かないリチウムイオンが、容量低下を引き起こしている。

動かないリチウムイオンはカソード内で不均一に分布しており、研究チームはリチウム濃度が異なる領域を正確に特定して、数nm単位で分離することに成功した。これらの領域では結晶格子に歪みや変形が発生していることも明らかになった。

この研究成果は、電池のさらなる高容量化への重要な手がかりとなる。また、イオン拡散について得られた知識と研究チームが開発した手法は、他の電池材料にわずかな調整を加えるだけで適用でき、より正確に電池材料の特性を評価してさらなる開発を進めることが可能になるという。

研究成果は2024年6月10日付で『Advanced Energy Materials』に掲載された。

関連情報

関連記事

アーカイブ

fabcross
meitec
next
メルマガ登録
ページ上部へ戻る