- 2024-11-29
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- カーボンブラック, ファーネスブラック, プラズマ技術, プラズマ触媒反応, 低炭素製造技術, 東京科学大学, 東京科学大学工学院機械系, 機能性炭素材料, 炭素材料, 研究, 電気伝導性, 非平衡プラズマ
東京科学大学工学院機械系の野崎智洋教授らは2024年11月28日、一酸化炭素(CO)を非平衡プラズマで活性化して鉄触媒に作用させることで、高い電気伝導性を示すカーボンブラックを連続かつ大量に合成したと発表した。この手法で合成した炭素材料は電気伝導性が高く、電気化学デバイスの電極材料として利用できる。
研究グループはカーボンブラックの合成に、これまでに見出していた、COを振動励起すれば触媒を構成する格子酸素(結晶構造中の原子配列のすき間に存在する酸化物イオン)との反応が促進されることを応用した。
プラズマ触媒反応で合成したカーボンブラックは、合成温度が600℃程度だが、ファーネスブラック(炭化水素の部分燃焼を利用した1000℃以上の高温熱プロセスで合成したカーボンブラック材料)よりも高いグラファイト結晶性を有し、高い電気伝導性を示した。
熱平衡計算に基づき炭素(C)、酸素(O)、水素(H)、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)の相図を作成し、カーボンブラックが生成されやすい条件を調べた。実際に、カーボンブラック合成をさまざまな条件で試みた結果、カーボンブラックは触媒の温度が高すぎても低すぎても生成されず、約600℃(プラズマ印加・水素添加あり)で最も高いカーボンブラックの収率を示した。
プラズマを印加すると、励起された気体分子が鉄酸化物の一部を鉄に還元し、活性サイトを形成することで平衡論的に有利な低温領域でのカーボンブラック生成に寄与したと考えられる。プラズマの役割は、COを励起して直接的にC≡O結合を切るのではなく、低温で鉄酸化物を部分的に還元することだと示唆された。また、H2を微量添加(COに対して約10%)してプラズマを作用させると、CO転換率が最大で約6倍向上した。
カーボンブラックの密度は、触媒粒子より約2桁小さく軽いことから、合成中は反応器下部の流動層部分に滞留せず、約11時間の連続合成では、プラズマの諸特性、CO消費率、触媒活性はほとんど変化しない。600℃ではカーボンブラックは反応器壁に焼き付くような問題を起こさないため、連続運転できる。
熱反応で合成したカーボンブラックは繊維状の構造を示すが、プラズマを作用させるとコイル状に湾曲したカーボンブラックが選択的に生成される。
コイル状カーボンブラックのラマン散乱スペクトルを見ると、グラファイト構造を示すG-bandピークが明瞭に観察され、グラファイトが層状になっていることを示唆する2D-bandピークも確認できる。高電気伝導性グラファイト(ファーネスブラック)として入手できるカーボンブラックのラマン散乱スペクトルでは、ファーネスブラックのグラファイト結晶性はプラズマ触媒で合成したものより低いことがわかる。
開発した手法は、機能性炭素材料合成に寄与することに加え、二酸化炭素(CO2)排出量が少ない低炭素製造技術としてのユニークな特徴も備えている。プラズマの非熱的な作用で化学反応を促進することに加え、プラズマで発生する熱も有効利用して、カーボンブラック合成プロセスを完全電化できる可能性がある。この電力を低炭素電源(再生可能エネルギー)から供給すれば、一般的なファーネスブラックを合成する技術と比較して、CO2排出量を従来の10分の1に低減できることが試算されている。
合成した炭素材料は、燃料電池や二次電池など低炭素技術で有望される電気化学デバイスの電極材料として利用できる。CO2を炭素資源として循環利用することに加え、カーボンブラックの新しい需要開拓においても重要な役割を果たすことが期待される。