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放射冷却を活用し、電力不要で建物内を冷却できる多孔質プラスチックシートを開発

Credit: Provided by Yupeng Li/Dalian University of Technology. All Rights Reserved.

米ペンシルベニア州立大学は2025年2月5日、同大学と中国の大連理工大学が、放射冷却によって建物内部の温度を下げられる多孔質プラスチックシートを開発し、このシートで作った箱の中の温度を、外気温26.7℃の下で18.5℃まで低下させることに成功したと発表した。

従来の建物冷却システムは冷媒と電力を使用しているため、大気中の温室効果をもたらし、異常気象を引き起こしている。そこで材料科学の研究者たちは、従来とは異なる冷却手法に注目している。

今回の研究では、粉末状のポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)を使って厚さ約2.1mmの多孔質シートを作製した。ワンステップ粉末焼結方式を採用し、PMMA粉末を平らなシートに融合させて、さまざまな大きさの細孔が存在するシートを作った。

このPMMAシートの細孔は、皮膚の毛穴のように、光を散乱させてさまざまな角度で放射し、内部空間を冷却する。他の受動的放熱材が短波赤外線を反射して空間に戻すのに対し、このシートは可視光と短波赤外線の両方を反射するため、日中の冷却効果が高く、赤外線と可視光線を平均96%反射する。さらに、夜間には中波長の赤外線を大気圏を通って深宇宙に放射し、内部空間を冷却する。

実験では、多孔質PMMAシートで箱を作り、内部に温度計を設置した箱を太陽光の下に置いて温度を測定した。その結果、晴天で外気温が約26.7℃の環境で、PMMAシートは箱の中を18.5℃まで冷却した。それに対し、同じ寸法の普通の段ボール箱では内部温度は24.0℃までしか下がらなかった。

次に、研究チームは、太陽の代わりにソーラーシミュレーター(疑似太陽光源)を使って研究室で実験を繰り返した。これにより風などの環境条件を制御することが可能になったが、屋内の温度は宇宙空間の温度よりも高いため、研究室内での放射冷却効果は屋外より低下する結果となった。

この多孔質PMMAシートは白色で、住宅の外壁や屋根に安価で効果的に追加でき、家屋を受動的に冷却して、エアコンの補助として機能する可能性がある。日中の受動的冷却はエネルギーや電力を必要としない点も特徴だ。気候変動により年々日中の気温が上昇している地域の建物に適用できる。

このシートは、建物に貼られて太陽光にさらされると数年後には劣化するが、容易に粉砕でき、リサイクルして工業規模で粉末焼結することで、別の建物に再利用できるという。研究チームはPMMAシートの設置交換をする新しいビジネスが立ち上がり、ひいては地域社会に新しい雇用を生み出すと予想している。また、今後この材料のさらなる応用に取り組んでいくとしている。

研究成果は、2024年11月5日付で『Advanced Materials Technologies』に掲載された。

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