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陽子内部の目に見えない力を世界最小規模で可視化――象10頭分の力を発見 豪アデレード大学他

Source: J.A. Crawford et al./Physical Review Letters (2025)

オーストラリアのアデレード大学は2025年2月21日、同大学を中心とした国際研究チームが、陽子の内部で働く力をマッピングし、クォーク(陽子内の微小粒子)に高エネルギーの光子が当たったときにクォークがどのように反応するかを、これまでにない詳細さで示したと発表した。

アデレード大学の研究者たちは、自然界を支える力についてさらなる洞察を深めようと、原子を構成するものの構造を調べている。原子を構成する陽子や中性子などのハドロン粒子は複数のクォークによって構成されており、それらのクォーク同士の結合には「強い相互作用(強い力)」の一種である「色力」が働く。このような力を記述する理論が「量子色力学(QCD)」だ。

国際研究チームは、「格子量子色力学(格子QCD)」と呼ばれる強力な計算技術を用いて、陽子内部で働く力をマッピングした。このアプローチは、空間と時間を細かいグリッドに分解し、強い力が陽子内部の異なる領域でどのように変化するかをシミュレーションすることを可能にするものだ。

今回作成された力場マップは、これまでに作成された自然界の力場マップの中で、おそらく史上最小のものだという。

研究チームは今回の研究で、この非常に小さいスケールにおいてさえ関係する力は膨大で、それは原子核よりもはるかに小さな空間内で圧縮された、象約10頭分の力に相当する50万ニュートンにも達することを明らかにした。

今回の力場マップは、陽子の複雑な内部力学を理解するための新しい方法を提供するものだ。欧州原子核研究機構(CERN)が建設した大型ハドロン衝突型加速器(LHC)で実験されているような高エネルギー衝突や、物質の基本構造を探る実験における、陽子の振る舞いを説明するのに役立つという。

研究チームは、陽子の内部構造の解明を続け、より深い洞察を得ることで、最先端技術における陽子の利用法を改良するのに役立つ可能性があるとしている。その顕著な例の1つが陽子線治療だ。陽子線治療では、高エネルギーの陽子を使用して腫瘍を正確に狙い撃ちすることで、周辺組織へのダメージを最小限に抑えることができる。光の理解についての初期のブレークスルーが現代のレーザーやイメージングへの道を開いたように、陽子構造に関する知識を深めることは科学や医学における次世代の応用を形作る可能性があるとしている。

研究成果は2025年2月19日付で『Physical Review Letters』に掲載された。

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