- 2023-11-1
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- SDGs, カーボンニュートラル, サステナブル, ビトリマー, ポリロタキサン, リサイクル, 東京大学, 構造接着材料, 樹脂, 研究, 繊維強化複合材料
東京大学は2023年10月31日、同大学大学院新領域創成科学研究科の研究グループが、ポリロタキサンを含んだ高機能樹脂を作製したと発表した。ポリロタキサンを添加することで、伸びる、治る、分解するといった性能が大幅に向上している。
近年、環境保護の観点から、エコフレンドリーな樹脂が求められている。そのような材料として、ビトリマーは再加工性やケミカルリサイクル性、傷の修復といったサステイナブルな機能を有しており、新素材として期待されている。
一方で、高硬度ビトリマー樹脂は、一般的な架橋樹脂と同様に硬いほど脆くなる。このため、これまでのビトリマーの研究は、比較的柔らかい樹脂やゴムを対象としたものが多かった。
今回の研究では、ポリロタキサンというネックレス状の超分子化合物を高硬度ビトリマー樹脂に含有させた。ポリロタキサンは、軸高分子が複数の環状分子に包まれており、末端には嵩高い化合物(封止基)が存在することで、環状分子が軸高分子から抜けないような構造となっている。
ポリロタキサンでは、環状分子が軸高分子上を並進拡散運動(スライド運動)する。このため、樹脂に含ませた際にスライド運動が外力を分散させ、しなやかに応力をいなすことで、竹のような強靭性が付与される。
スライド運動により、強靭性が増すことに加えて、エポキシ系ビトリマーの結合交換反応の活性化エネルギーが減少。ポリロタキサンの環状分子に修飾したポリエステルのグラフト基と、エポキシ系ビトリマー樹脂のエステル結合をエステル交換反応によって結合交換させることで、ビトリマー中でのポリロタキサンが高い均一性で分散した。
ポリロタキサンを含有させることで、靭性の指標となる1軸伸長率が5倍以上、傷の自己修復速度が15倍以上、エチレングリコールを用いた化学分解速度が10倍以上に達した。一方で、硬さの指標となるヤング率は低下しなかった。
同樹脂は、ビトリマーのトレードオフプロット限界線(二律背反する性質の上限ライン)を大きく越えている。一般的に、高硬度樹脂の硬さと伸長率(変形量)は、材料によらず相反することが知られている。
伸張性や強靭性に優れるため、下図のような折り鶴も作成可能。ビトリマーは形状記憶性にも優れており、加熱により形状を復元できる。さらに、結合交換温度以上での加熱による形状の記憶編集により、簡易な折り鶴や螺旋形状の場合は温度を変えるだけで何度も形状を復元できる。
海水生分解性試験では、エポキシ系ビトリマー樹脂にポリロタキサンを10wt%含有させることで、1ヶ月で生分解が約30%進行する結果も得られた。なお、通常のエポキシ系ビトリマー樹脂は、生分解性を全く示さない。
今回開発した樹脂は、構造接着材料や繊維強化複合材料への応用につながることが期待される。また、リサイクルやカーボンニュートラルの観点からも理想的な樹脂材料と考えられる。
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