触媒によって水素を放出する液体――FCV向け液体有機水素キャリアシステムを開発

脱炭素社会の実現に向けて、水素は化石燃料に変わるエネルギー資源として注目されている。スウェーデンのルンド大学の研究チームは、固体触媒によって水素を放出する、液体の水素燃料電池車(FCV)用燃料を提案した。使用済みの液体は、水素を再び添加して再利用できる。研究成果は、『Catalysis Science & Technology』誌2023年号17巻、『ChemSusChem』2023年15巻8号の2つの論文で公開されている。

水素は、重量エネルギー密度が高いという特徴があるが、水素ガスの取り扱いが難しいため、研究チームは現在のガソリンスタンドと同じようにFCVにポンプで供給できる、水素を添加した液体燃料に注目している。この水素を添加・放出できる液体はLOHC(Liquid Organic Hydrogen Carriers:液体有機水素キャリア)と呼ばれており、コンセプト自体は新しいものではない。解決すべき課題は、液体から水素を取り出すことができる効率的な触媒を見つけることだ。

研究チームは、液体キャリアとしてイソプロパノールと4-メチルピペリジンを用いて、新たなLOHCシステムを開発した。水素を添加した液体を固体触媒の中にポンプで送り込み、取り出された水素は燃料電池で使用される。水素を放出した使用済みの液体は別のタンクに送られ、システムから排出されるのは水だけだ。充填ステーションで、使用済み液体のタンクを空にし、新しく水素が添加された液体を充填できる。

このシステムを用いて、液体中に存在する水素の99%以上を変換することができた。研究チームは、バスやトラック、航空機など大型の輸送車両に使用する可能性も検討している。大きなタンクを使用すれば、ディーゼル車とほぼ同じ距離を走行できる可能性があり、圧縮水素に比べて約50%多くのエネルギーに変換することができる。

しかし、課題はいくつか残っている。一つは触媒の寿命がかなり短いこと、もう一つは触媒のベースとなるイリジウムがレアメタルであることだ。研究チームは、FCV 1台につき約2グラムのイリジウムが必要と計算しており、これは従来の自動車で、排気ガス浄化触媒コンバーターに希少金属のプラチナ、パラジウム、ロジウムを約3グラム使用していることに比較して同程度としている。また現在の水素の98%は天然ガスから製造され、実質的に化石燃料由来であるため、再生可能エネルギーを使用して水を分解して得る、クリーンな水素が必要になる。

このシステムは、まだ基礎研究に基づいた技術的な解決策に過ぎない。しかし研究チームは、経済的に実行可能で社会からの関心があれば、10年以内にこのコンセプトを実現できると考えている。

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