日本原子力研究開発機構(JAEA)は2023年12月1日、天然構造を持つセルロースナノファイバーとごく低濃度の水酸化ナトリウムを混ぜて凍らせ、クエン酸を加えて溶かすだけで、高強度多孔質ゲル材料ができることを発見したと発表した。この材料には水から金属イオンを回収する性能があり、有害金属やガスを吸着して環境を浄化する吸着剤や、金属イオン回収剤として活用できる可能性がある。
研究グループは以前から、反応性の高いカルボキシメチルセルロースを使ったゲル材料の開発に取り組んでいるが、木材から抽出した天然構造を持つセルロースは反応性が低いためにゲル材料化できず、原料が限られていることが課題だった。
研究グループは今回、水の凍結時に生じる氷結晶と溶質の相分離現象に着目して材料開発に取り組んだ。水溶液を凍結させると氷結晶と濃厚な溶質からできる凍結凝集層の相分離現象(凍結凝集現象)が見られ、溶質分子同士がぎゅっと制限空間に押し込められた凍結凝集層では、通常とは異なる分子の配列が生じる。
低濃度の水酸化ナトリウム(NaOH)(0.2モル/L)を混ぜたセルロースナノファイバーを凍らせ、そこにクエン酸溶液を混ぜて溶かしたところ、圧縮してもつぶれない強さのゼリー状の物質(セルロースゲル)ができた。このセルロースゲルは、圧縮負荷をかけると水を放出しながら10分の1以下の厚さにつぶれるほどの柔らかさを持つ一方で、圧縮負荷をかけるのをやめると同時に再び吸水して元通りの形状に戻る高い復元性を示した。
比較するために、クエン酸を加えずに、セルロースナノファイバーと水酸化ナトリウムを混ぜた溶液を凍らせて溶かしたところ、セルロースゲルが形成したが、この物質は圧縮するとつぶれてしまった。また、単にセルロースナノファイバーを凍結させて溶かしてみたが、ゲル状の構造体ができたものの、触るとすぐに壊れてしまった。
こうしたことから、「凍結」と「水酸化ナトリウム」「クエン酸」によって、従来にない強い三次元構造を持つセルロース多孔質ゲル材料ができることを確認した。
また、研究グループは、粘土粉末を含んだセルロース多孔質ゲルを作り、水から金属イオンを回収する吸着剤としての性能を調べた。鉛、銅、亜鉛イオンを含む溶液に作製したゲルを入れたところ、数分でほとんど全ての金属が吸着され、取り出したゲルに加圧すると、水だけ吐き出して内部に金属がとどまった。このゲルを、金属を脱離する溶液に入れれば吸着した金属を回収することもできる。
こうしたことから、今回開発されたセルロース多孔質ゲル材料は、有害金属やガスを吸着する吸着剤や金属イオン回収剤のほか、医療材料としての活用が期待される。
今回の成果は2023年12月1日、国際学術誌「Carbohydrate Polymers」オンライン版に掲載された。
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天然素材のセルロースを凍らせるだけ!強い機能性ゲル材料を新たに開発 ―凍結によるセルロースの結晶相転移と簡易なゲル合成法を発見―|日本原子力研究開発機構:プレス発表