- 2024-2-2
- 技術ニュース, 電気・電子系
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大阪大学大学院基礎工学研究科の永妻忠夫教授らの研究グループは2024年1月31日、IMRA AMERICAと共同で、300GHz帯無線通信システムの送受信器に、光技術を利用した超低雑音サブテラヘルツ信号発生器を用いて、シングルチャネルでの無線通信システムの伝送速度としては世界最高の240Gbit/sを達成したと発表した。今回開発したサブテラヘルツ信号発生器は、電力密度に換算して、従来比100分の1以下の位相雑音を実現している。
Beyond 5G/6Gで目指している性能指標の一つである高速、大容量化を実現するには、広い周波数帯域を確保できる100~300GHz(サブテラヘルツ)の電波の利用が期待されている。高速化には、周波数利用効率の高い多値変調方式を用いることが有効だが、信号発生器の振幅雑音と位相雑音が、サブテラヘルツ帯で多値変調を行うための大きな課題の一つとなっていた。
研究では、サブテラヘルツ信号の発生、制御、検出において、光通信波長(1.55μm)帯レーザ、光変調器、フォトダイオードに加え、「ブリルアン光源」と呼ばれる光信号発生器を送受信システムに用いている。
ブリルアン光源の特徴は、高安定の光ファイバ共振器(共振器長75m)に、半導体レーザで発生させた2つの波長の異なる光波を注入し、その共振周波数にロックさせることにある。また、光ファイバを伝搬する光信号の線幅は、誘導ブリルアン散乱現象で狭窄化され、サブテラヘルツ波の周波数ゆらぎを一層向上させることに寄与する。
無線通信システムの送信側では、ブリルアン光源から発生した2つの異なる波長の光を2つの光路に分岐し、一方の波長の光は多値光変調器によって16~256QAM変調された光信号を生成、もう一方の波長の光は変調を施さず、光合波器を用いてディジタル変調された光と合波される。フォトダイオードにより、合波された光を電気信号に変換すると、2波の波長差に対応した周波数をキャリア信号とする電波に変換できる。
サブハーモニックミキサにより、アンテナで受信したRF信号は10~30GHzの周波数IF信号に変換される。従来技術では、生成されたRF/LO信号は、振幅雑音や位相雑音が大きいという問題があったが、今回、ブリルアン光源をRF/LO信号の双方の発生に用いて、振幅雑音や位相雑音を従来の100分の1以下に低減した。
IF信号は増幅した後、ディジタル信号解析装置で、元のデータ信号に復調される。リアルタイムオシロスコープでは、コンスタレーションとして復調した信号を表示し、ビット誤り率(BER)を計測し、所望の伝送速度の無線通信が成功したか否かを判定する。ディジタル変復調を用いた通信の研究開発では、HD-FECリミットのビット誤り率に到達するか否かで、通信の成否を判断する。
ホーンアンテナ(利得24dBi)を送受信に用い、距離3cmで64QAM変調の通信を行った実験では、64QAMは一度に6ビットのデータを送受信することに対応し、伝送速度として240Gbit/sを達成した。研究では、256QAMまで100Gbit/s超伝送に成功しており、いずれもシングルチャネルでの世界最高の伝送速度となっている。
アンテナをホーンアンテナから利得の高いカセグレンアンテナ(設計利得50dBi)に替え、通信距離を20mまで長尺化した実験では、32QAM変調時で、200Gbit/s(HD-FECリミット)を達成した。現在、さらなる高速化と200m以上の長尺化を目指し、フォトダイオードの改良による送信電力の増加、受信素子の高感度化、アンテナの高利得化の研究開発を進めている。
研究成果の基礎となる技術は今後、有線の光ファイバ通信と無線通信とを同等の伝送速度で自在につなげた、大容量、超低遅延通信ネットワークの実現が期待される。Beyond 5G/6Gに向けた300GHz帯無線通信技術の進展に大きく貢献する。