電極–イオン間の電子授受のしやすさを記述する新たな電気化学理論を提唱――二次電池の高性能化に寄与 東京大学

東京大学は2024年2月20日、同大学大学院工学系研究科の研究グループが、固体科学の概念を液体材料(電解液)に用いて、電極−イオン間の電子授受のしやすさ(電極電位)を記述する新たな電気化学理論を提唱したと発表した。二次電池の高性能化に寄与することが期待される。

2050年のカーボンニュートラル達成に向けて、高性能な蓄電システムの開発が求められている。優れた蓄電システムを開発するにあたっては、蓄電池材料の性能を最大限に引き出す設計手法が必要となる。

蓄電池は、主に電極材料と電解液材料から構成される。電極-イオン間の電子授受のしやすさを表す指標が電極電位だ。電解液に依存して電極電位がシフトし、これにより電極反応効率や充放電サイクル特性が影響を受けることは広く知られている。

一方で、その定量解釈に関して重要となる濃厚電解液を記述するモデルが、これまで存在しなかった。蓄電池材料の自在な設計には、濃厚電解液の電極電位を定量的に記述できる理論モデルの構築が必要となる。

同研究グループは今回、固体科学の概念であるマーデルングポテンシャルを液体系に適用した。マーデルングポテンシャルとは、イオン結晶におけるイオン間のクーロン相互作用の総和を指す。

数値シミュレーション(分子動力学法)を用いて、リチウムイオンと溶媒や陰イオンなどの周辺化学種とのクーロン相互作用を計算。電解液中でリチウムイオンの感じる静電的な居心地の良さ(液相マーデルングポテンシャル)を求めた。

電解液の濃厚化による液相マーデルングポテンシャルの変化分を電位シフトに換算したところ、実験で測定した電極電位上昇分を高精度で再現できることが判明した。

液相マーデルングポテンシャルによるリチウム電極電位シフトの定量評価

また、電解液に依存して電極電位がシフトする現象が、電解液中のリチウムイオン周囲の配位環境の変化による静電的な不安定化に起因することも分かった。

電位アップシフトのメカニズムを表す模式図

今回、濃厚電解液系に対する電極電位の定量記述モデルを確立したことは、電池に加えてめっき、製錬などさまざまな電気化学システムの設計性向上に、ひいてはエネルギー貯蔵/変換技術の性能向上に寄与することが期待される。

関連情報

電気化学における100年来の未解決問題に答え ―固体と液体を繋ぐ新理論の構築―|プレスリリース | UTokyo-Eng

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