光の伝播方向を制御できる新素材を発見――ARやヘルステックを革新する可能性も

UAEのドバイを拠点とするディープテック企業XPANCEOが、グラフェンの研究でノーベル賞を受賞したマンチェスター大学のKonstantin S.Novoselov博士や、スペインのアラゴンナノ科学材料研究所との共同研究で、グラフェンに類似した層状材料である二セレン化レニウム(ReSe2)および二硫化レニウム(ReS2)において、対称性が非常に低い三斜晶系結晶構造を持つことにより、波長の変更に対応して主光軸を回転できることを見出した。ナノフォトニクスや光エレクトロニクスの分野を革新して、波長によるスイッチングが可能なメタマテリアル、AIやVR、ヘルスケアなどの開発に繋がる技術基盤となると期待している。研究成果が、2024年3月6日に『Nature Communications』誌に公開されている。

XPANCEOは、約50人の科学者と技術者を擁して、新しい素材を通じて次世代のオプトエレクトロニクス機能を発揮する、スマートコンタクトレンズの開発を目指しているスタートアップ企業だ。これまでに、クロスリアリティXRビジョン用レンズ、3Dやホログラフィック用レンズ、ヘルスモニター機器などのプロトタイプを開発し注目を集めている。2023年には4000万ドル(約60億6800万円)の新たな研究資金を調達している。

XPANCEOの研究チームは、グラフェンのようにファンデルワールス結合した層状三斜晶系材料であるReSe2とReS2に注目して、その吸収と屈折などの光学特性を調べたところ、従来の材料における3軸方向の自由度に加えて、各軸周りの回転の自由度があり、全体として6自由度があることを発見した。その結果、波長の変更に対応して主光軸を回転させることができ、光の伝播方向をスイッチングすることが可能になることを見出した。「ReSe2およびReS2と光の間に存在する相互作用の源は、これらの材料の極めて低い対称性に起因し、シリコンや二酸化チタンなど他の光学材料では観察されない」と、研究チームは説明する。このような光によるスイッチング機能を活用することにより、メタマテリアルやメタサーフェス、導波デバイスなど革新的なスマートコンタクトレンズを設計できると考えている。

新しく開発されたReSe2およびReS2は、スマートコンタクトレンズ分野に留まらず、ナノフォトニクスやヘルスケア、拡張現実(AR)に展開することにより、広大な応用の可能性が期待される、と研究チームは語る。

例えばフォトニック回路技術の開発を促進して、単位時間あたり膨大な情報を伝達できる、高速で強力なハイテクコンピューターが実現できれば、AIや機械学習などにおける複雑な処理を高速で実行できるようになる。また、色覚障害の人が全スペクトルを視覚できるARビジョン活用スマートコンタクトレンズを開発できる。また、感度およびコスト効率の観点で従来のアナログ品を超える高効率の生化学センサーを開発することで、病院で使われている血液検査機器のコストを大幅に低減し、さらに癌やCOVIDなどの危険な病気やウィルスを早期に検知できるようになる、と期待している。

関連情報

関連記事

アーカイブ

fabcross
meitec
next
メルマガ登録
ページ上部へ戻る