- 2024-10-8
- 技術ニュース, 海外ニュース, 電気・電子系
- Sustainable Energy & Fuels, ガス火力発電, チューリッヒ工科大学, 再生可能エネルギー, 太陽光発電, 学術, 水素, 酸化還元反応, 鉄鉱石
スイスのチューリッヒ工科大学は2024年8月28日、同大学の研究チームが鉄鉱石と水素の酸化還元反応を利用することにより、水素を安全に長期間貯蔵する手法を考案したと発表した。従来型の水素貯蔵設備に比べて約10倍安価な貯蔵方式であり、供給面に不安定性のある再生可能エネルギーの活用を促進することが期待される。
スイスでは、2050年までに電力の40%以上を太陽光発電が担うことを目標にしているが、冬季は夏季と比較して日照時間が非常に少ない。スイス連邦のエネルギー戦略では、冬季における電力不足を輸入あるいは風力、水力、そしてアルプスに設置する太陽光発電やガス火力発電の組み合わせによって埋めようとしている。輸入と火力発電への依存を減らすための方策として、夏季に安価な太陽光発電を利用して水素を製造し、その水素を貯蔵して冬季に電力へ変換することが検討されている。しかし、水素は極めて可燃性で爆発性が高く、保管容器の材料脆化の原因にもなるため、安全に水素を貯蔵するには、高圧コンテナや冷却技術とともに、特別な安全対策を有する非常に高価な設備が必要となる。
研究チームは、安全かつ長期間水素を貯蔵できる経済的な貯蔵システムの考案に取り組み、地球上に豊富に存在する鉄と、水蒸気-鉄の酸化還元反応に着目した。夏季に太陽光発電などで発生する余剰電力を用いて、水の電気分解により水素を製造し、鉄鉱石で満たされた400℃の反応炉に送入する。水素は鉄鉱石を還元して純鉄と水を発生させるが、「水素の持つエネルギーは、ほとんど損失なく、鉄と水の形で貯蔵できる」と語る。エネルギーが不足する冬季には、プロセスを反転させて高温水蒸気を反応炉に送入し、鉄と水を酸化反応により酸化鉄と水素に戻し、グリーンな水素を再生できる。
「反応炉は特別な安全対策が不要で、わずか6mm厚のステンレス鋼で製作可能です。反応は通常圧力下で行われ、鉄鉱石を入れ替えることなく何回も再使用でき、スケールアップも容易で、従来型の水素貯蔵設備に比べて約10倍安価な貯蔵方式です」と、研究チームは説明した。実際に、容量1.4m3の反応炉3基から構成されるパイロットプラントにおいて、約10MWhに相当する水素を長期間貯蔵できることを確認した。他のエネルギー源と比較して総合的エネルギー効率が低いという問題はあるが、2026年までにパイロットプラント容量を2000m3まで拡張し、大学キャンパスの冬季必要電力の5分の1である、4GWhに相当するグリーンな水素を貯蔵する計画だ。
関連情報
Iron as an inexpensive storage medium for hydrogen | ETH Zurich