- 2024-11-5
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- Science Bulletin, アルゴン, リチウムイオン電池(LIB), 一酸化炭素, 中国科学技術大学, 二酸化炭素, 原子力電池, 太陽電池パネル, 学術, 火星探査ローバー, 火星電池システム, 窒素, 酸素
サイエンスチャイナプレスは2024年9月27日、中国科学技術大学が、火星の環境に適応する高エネルギー密度かつ長寿命の電池を開発したと発表した。この電池は火星の大気を放電時の燃料として活用できるという。
火星の大気は、二酸化炭素(CO2)95.32%、窒素2.7%、アルゴン1.6%、酸素0.13%、一酸化炭素0.08%という多様な気体から成る。また、火星では昼夜の温度差が約60℃と極端な温度変動があり、非常に複雑な環境となっている。
火星上で火星探査ローバーやその他の探査装置を動かす電力は主に2種類ある。1つはポータブルなリチウムイオン電池(LIB)で、もう1つは大規模な太陽電池パネルと原子力電池だ。しかし、ほぼ全ての火星探査ローバーに採用されているLIBは、夜間の気温が氷点下になることもある火星では、日周温度変動の大きさからその性能に深刻な影響を受け、最終的に容量とサイクル寿命が低下してしまうといった問題がある。
また、エネルギー密度が高く、火星探査への応用が広く検討されているLi-CO2電池もあるが、火星の大気組成の主成分が二酸化炭素であるとはいえ、純粋な二酸化炭素の代わりに火星の大気を使って、その性能と反応メカニズムを簡単に再現できるわけではない。そのため、リチウムと火星の大気を利用する電池を検討する必要がある。
そこで研究チームは、放電時に火星の大気を燃料として利用する新しい火星用電池を開発した。このアプローチによって電池の重量を大幅に削減できるため、打ち上げコストを抑えられると考えられ、宇宙ミッションに適したものとなる。一度消耗した電池は、火星表面で得られる太陽エネルギーを使って再充電でき、その後の放電に備えることが可能だ。
また、電力の継続出力が可能な火星電池システムを開発するため、温度変動を含む火星の地表条件をシミュレートした。
研究チームは、0℃の低温で、この電池が最大エネルギー密度373.9Wh/kgと1375時間の充放電サイクル寿命を達成することを実証した。これは火星における約2カ月間の連続運転に相当する。
この電池の充放電プロセスでは炭酸リチウムの生成と分解が行われる。その際、火星大気中に含まれる微量の酸素と一酸化炭素が反応触媒として作用し、二酸化炭素への転化速度を大幅に加速させる。研究チームは、集積電極を実装し折り畳みセル構造を設計して、火星大気の有効反応面積を最大化した。さらに、セルサイズを2×2cmまで拡大することで、セルレベルのエネルギー密度を765Wh/kg、630Wh/Lにまで向上させた。
研究チームによると、この研究は火星用電池を実際の火星環境に適用するための重要な概念実証になるという。また、将来の宇宙探査用マルチエネルギー補完システム開発に向けた基礎段階を築くものだとしている。研究チームは、今後の研究で低圧下での電解液揮発という課題に取り組み、熱管理システムおよび気圧管理システムをサポートして、固体火星電池の開発を進める方針だ。
研究成果は2024年6月28日付で『Science Bulletin』オンライン版に掲載された。