- 2024-11-15
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スイスのチューリッヒ工科大学の研究チームは2024年10月11日、ピーク出力100MW、平均出力550Wという、レーザー発振器としては史上最強の超短パルスレーザーを開発したと発表した。この技術では、レーザー材料として厚さ100μmのイッテルビウム原子を含む結晶の薄い円板を使用している。レーザー内のミラー配置を最適化し、パルスを放出する特殊なミラーを改良したことで実現した。将来的には、精密な測定や材料の加工、検査に利用されると期待される。
科学や産業では、非常に短く強力なパルス状のレーザーが必要になることがある。超短パルスレーザーは、X線までの高調波周波数を生成するために使用でき、アト秒(1×10-18秒=100京分の1秒)の非常に高速な現象を可視化するのに役立つ。
この超短パルスレーザーの平均出力は、これまでの最高記録を50%以上も上回っているという。また、ピーク出力の100MWは、理論上10万台の掃除機を動かせるほどの出力に相当する。このパルスは、1ピコ秒(1兆分の1秒)未満という極めて短い時間で毎秒500万回発射できる。
この技術の成功は、研究チームが短パルスディスクレーザーと呼ばれる技術の向上に長年取り組む中で達成した、2つの技術革新によるものである。
1つ目の技術革新は、ミラーの配置の最適化だ。光が円板を何度も通過してから、カップリングミラーを介してレーザーから出ていく特殊なミラー配置を採用した。この配置により、レーザーが不安定になることなく光を大幅に増幅できる。
2つ目は、超短パルスレーザーの中核となるSESAM(半導体可飽和吸収ミラー)の改良だ。レーザー発振器内で直接高出力を生み出すために、SESAMミラーに、ミラーの特性を大きく向上させる薄いサファイア窓を取り付けた。そうすることで、ノイズを抑えながら増幅できる。
この新しいレーザーによって作られる高速で強力なパルスは、紫外線からX線領域にわたる新しい光周波数コムに応用できる見込みで、さらに精度の高い時計の開発につながる可能性がある。また、テラヘルツ放射をレーザーで生成すれば、材料の検査にも使用できるという。
研究成果は、2024年9月23日付で「Optica」誌にて公開された。